タケシは必要?
タケシの情報により、悠夜の偽者を探したに来た悠夜と光喜とタケシの3人。
だが、その現場はキック一撃でバラバラに粉砕されてしまうようなモンスターや、お菓子の家ならぬお菓子の城なダンジョンだった。
お菓子の城に入った3人にはタケシのミスで崩壊してきた天井が迫っていた。
俺は頭上から降り注いでくる瓦礫に向かって手をかざした。
「防御用魔方陣展開!!」
すると、空中に黄色い魔方陣が現れ瓦礫から俺たちを守る盾となった。魔方陣が少しブレるように
振動し、瓦礫の重量が伝わってくるようだ。
「光喜、時間止めろ!!」
「ふぇ!? あ、うん」
光喜は放心状態から我に帰り魔力を放出する。俺は魔方陣を消したが、瓦礫は空中で静止したま
ま落ちてくることはなかった。とはいっても、このままここにいるわけにもいかないので、その場から離
れてることにする。かなり離れた場所に来てから光喜が魔法を解くと、瓦礫が降り注ぐ音が聞こえてき
た。
「タケシのせいで危なかったね・・・」
「グサッ!!」
光喜の言葉にタケシは何かが突き刺さるような擬音を口で言って体を反り返す。
「ほら、あっちに階段あるっすよ」
タケシはさっさと話題を変えると先頭を歩いて階段へと向かった。本当にあの男がここにいるのだろ
うか・・・。俺はあの男の実力を知らない。俺の記憶にあるのは、誰か検討もつかなくなってしまった母
の死体を見下している、背中に俺と同じ呪印があるあの男の姿。この呪印はかなりハイレベルな呪印
だから、きっとすごい魔術師だったに違いないのだが・・・。そんな奴がここにいたら、この城は崩壊し
ているのではないだろうか?
俺たちが階段を上がると、そこには誰かが立っていた。
「ん? あれって――」
「偽者発見!!」
俺が言いかけたとき、タケシはバズーカータイプのエネルギーバスターを魔力で作り出し構えた。そ
して、俺が静止をかける間もなくエネルギーバスターをぶっ放した。
「転送用魔方陣展開!!」
俺は今度は緑の魔方陣を足元に出す。すると、俺の体は黒い光に包まれた。そして、一瞬でその人
物とエネルギーバスターの間に入り込んだ。この魔方陣は一定距離をテレポートするための魔方陣だ、
ただ、自分から離れた距離にある物を転送させることはできないので、ほとんど自分が対象となる。
「え?」
俺の後ろにいた人物が声を上げる。俺とそいつにはバスターが迫っていたが、間一髪防御用の魔方
陣が間に合った。
「アニキ!?」
タケシが驚いた口調で言う。俺の後ろではヘナヘナとその人物がその場に座り込んだ。
「なんでかばうんっすか」
タケシが俺を咎めるような目で見ながら言う。俺は手に魔力を集中させて、小さな黒い球体を作り出す
す、タケシに向かって投げた。タケシの腹部には黒い球体が沈み、奇声を上げながらタケシは階段を転
げ落ちていった。
「たく・・・よく見えやがれ・・・」
俺は後ろにいた人物に目をやる。短い水色の髪をした、男か女か判別が難しい顔立ちの小柄な剣士
だった。俺の探しているのは、黒い長髪の背の高い男だ。どうかんがえても、コイツは違うだろ・・・。
「背が縮んだのかもよ?」
光喜が妄言を吐いたが、気にせずにその子に手を差し伸べた。
「立てるか?」
俺が言うとその子は「はい」と一言いって、俺の手を取って立ち上がった。声からして男だなこいつは。
俺たちが立っていると、男の子が戦闘していたであろう、クッキーが襲い掛かってきた。
「しまった、剣を!!」
男の子がそういいながら、さっきの騒動で手放してしまった剣を拾おうとした。んなことしてたら間に合
わんぞ。俺はしゃがみ込んだ男の子の頭上に軌道を置いて、クッキーのもろい図体に鋭いけりを入れた。
案の定、クッキーはボロボロと砕けて散っていく。
「あ・・・」
男の子は放心状態でそのクッキーの破片を見ていた。
「わりぃな、獲物取っちまって。賞金はお前にやるよ」
俺がそういったとき、男の子は俺を見上げるように立ち上がった。なんか、やたらとキラキラした純粋な
目が俺に向けられているのは気のせいだろうか。
「危ないところをありがとうございました」
男の子がそういったと同時に、階段からタケシが復活したようだ。というか、この子はやっぱり危ない状
態だったのだろうか・・・。正直ここのモンスター相手に、剣は必要ないと思うぞ。
「ボク、ダンジョンにくるのって初めてで・・・」
男の子がもじもじしながら言った。だと思ったよ、こんなダンジョンに来る奴は頭に電波を受信し続けて
いるようや奴か、初心者しかいないだろう・・・。ちなみに、俺はどっちにも属さないぞ・・・。
俺はポケットから薬草と火炎の石、それから、チョコレートを出した。ちなみに、薬草は回復アイテム、火
炎の石は敵に投げると炎属性の魔法攻撃、チョコレートは俺の気持ちだ酒でも良かったのだがな、さすが
にそれはまずいだろう。そして、その三つをその子の手に持たせてやった。
「がんばれよ」
そういいながら、その頭をなでる。
「はい・・・。なんか、いい人に会える日みたいです。さっきも、黒い長髪の人に助けてもらって」
その子がそういったとき、俺たちは目を見合わせた。
「ねぇねぇ、その人なんて名前が言わなかった?」
光喜が自分と同じくらいの目線の男の子に尋ねる。こうやって見ると、光喜がいかにチビがわかるよ、
まぁ光喜がどれぐらい小さいかは他の機会に語ることにして、今は名前が気になるな。
「はい。陽河 悠夜って名乗ってました」
男の子がそういったとき、光喜が俺を見た。どうやらビンゴだったらしいな・・・。こんなヘボダンジョンに
いるとは・・・。
「そいつ、どっちに行ったかわかるか?」
俺が尋ねると彼はこのダンジョンの地図を広げて俺の偽者が行ったという3階への行き方を教えてくれ
た。俺たちは奴に逃げられる前に急ぐことにした。
「あの・・・。あなたの名前は?」
俺は立ち止まって振り返ると、今日始めての笑顔をその子に向けた。
「その陽河悠夜の追っかけだよ」
俺はそれだけ言うと、その場から走り去った。
通路を疾走すること3分、タケシがバテたため歩くこと6分。俺たちはようやく次の階への階段にた
どり着いた。
「タケシおそ〜い」
光喜が後ろから来たタケシに言う。
「こ・・・光喜は何でそんな速いんだ!?」
タケシがぜぇぜぇといいながら光喜に言う。俺の身体能力の高さは知っているので、俺には疑問を
ぶつけるような野暮なマネはしない。だがタケシよ、こいつはこんな小さくても俺の双子の弟だぞ、そ
れぐらいの身体能力がなかったら困るぜ。
「ふぇ? だって、時間魔法使ってスピードアップしてるもん♪」
どうやら、それは俺の一人よがりだったらしい。光喜・・・ダンジョンを移動するだけで魔法を使うか
普通!? かくして、足手まといになっている気もするタケシに休息の時間をやるわけでもなく、俺は階
段を着々と登っていく。許せよタケシ、ライオンは自らの子供を崖から落とすものなんだ。まぁ、ライオ
ンの独自の文化と俺の短気さには全く持って共通点など存在しないことは確かだがな。
階段を登り終わった俺が見たのは、床が一回まで吹き抜けになった部屋だった。どうやら、城に入
ってすぐの爆発の影響は2階上のここにまで影響していたようだな。
「ここは俺に任せてくださいよ!!」
タケシはそういいながら、朝俺の家に飛んできたプロペラを魔力で作り出す。まず1つ作った後また
精神を集中して2個目を作ろうとしているようだ。
「ちょっと待っててください、人数分作りますから」
「いや・・・いい」
俺はタケシの言葉を無視して防御用の魔方陣を穴の上に出現させる。俺と光喜はその上を悠々と
歩いていき、タケシはポカンとした表情で俺たちを眺めていた。
「どうした、プロペラでついてこないのか?」
俺が言うとタケシは肩を落として泣き泣きついてきた。このダンジョンにおいてコイツは全く役に立っ
てないからな。
タケシが初登場の話なのに、タケシの見せ場がなく作ろうとしてもなぜか作れないという・・・。
やっぱり俺の中ではタケシはやられ役に近い存在なのかもしれません。