第3話「因縁の探し人」
エルルとの2人きりでの散歩は、結局いいこともなく終わってしまったが、その途中で倒した亜人の話により、悠夜は過去のことを気にかけ始めていた。
俺は深い、とても深いまどろみの中に居た。また、この夢か・・・・
俺がうっすらと目を開けてみるが、目をつぶっているのと大して変わりない暗黒の景色が
まるで俺を飲み込んでいるように広がっている。
チャプチャプという水音と、ゆらゆらと揺れ動く体から、自分が水面の上を浮いていること
を察することが出来る。
そして、俺の背後、つまり水中には殺意を秘めたような気配が漂ってくる。俺は水面に
浮いたまま、暗くてあるかもどうか分からない空を眺め続けていたが、そこに何がいるか
俺は知っている。
真っ赤な赤い3つの目を持ったクジラのように巨大な黒いサメだ。こいつは俺を食うわけ
でもなく、ただ俺の周りをグルグルと泳ぎ続けている。
すると、俺の頭上でかすかな光が差し込める。いよいよ夢のクライマックスのようだな。
誰かは分からない、そこには暖かな光を体から発する女性が水面の上に立っていた。
やがて彼女は水面の上でしゃがむと、俺の頬に手を当てる。
『私の名前を呼んで・・・』
何もないのに、エコーがかかったような透き通った声が響く。
『私の名前は・・・・』
彼女が言いかけたとき、俺の目の前の景色が変わった。俺がいるのは水面ではなく
ベットの上だ、どうやら現実に帰還したらしいな。
俺はベットから起き上がると、カーテンの間から差し込める朝の光を見て、起きる決意を
固める。
「・・・そういや、これどうするか」
俺は机の上に放置されていた宝石を見る、それはあの黒猫が持っていた物だ。
さて、ここで少し回想にでも入ろうか。なに、心配するな、俺の過去のドロドロ話ではなく
つい昨日の話だ。
俺とエルルは買い物を終えると、俺の家で待っていたシャリーナと光喜とともに食事を
とり、その後解散した。俺は自分部屋に戻り、あの宝石のメッセージを再生することにした。
数秒もかからず、宝石からは光が漏れ、3D映像のように中年の男が映し出された。
「これが・・・・ということは・・・私は・・・世にはいないだ・・・」
想像していた通り、傷だらけになっていたせいで再生が不完全だな。だが、文脈からして
恋文などの楽しい内容ではなさそうだ。
「・・・これには、盗みだ・・・リストと・・・・の情報が・・・てい・・・」
盗みだ、世にはいないだ、やな言葉の端々がうかがえるね。娘の誕生祝のメッセージを
込めるとか、もっと気の利いたことが出来んのか。
「奴らは『魔女狩り』と・・・ている・・・メシアの・・・と・・幹・・・の・・・ょうじ・・・・」
だんだんと映像が荒くなり、単語も聞き覚えのない単語が多くなってくる。
「・・・ア・・・ゼパル・・・ェル・・・えん・・・・・・めじ・・・・」
すると、ついには映像だけが残り、声が途絶えてしまった。どうやら再生限度はここまで
のようだな。俺が再生をやめようとしたとき、映像の中にいくつもの文字が現れた。
いくつかは読めなくなっているが、どうやら人の名前のようだ。
アキラ・・・アラン・・・イーゼル・・・イザナギ・・・イスミ・・・エリー・・・と判読できるものだけを
上から読んでいると、その文字で俺は硬直した。
「エルル・・・」
性格には、エリル・エルザートの名前がそこには書かれていて、その横にはCという文字が
書かれている。俺はそのリストをドンドンと読んでいく。
シャリーナ・ディスレント・・・C、陽河光喜・・・A、陽河悠夜、俺は自分の名前を見つけて顔を
しかめた、俺の名前の横にはXと書かれている、これをエックスと呼ぶのかバツと読むのかは
定かではない。
「なんのリストなんだ?」
俺はその場に黙りこくって考える。男の語りとこのリスト・・・とても楽しそうな話題にはならない
だろうな・・・・いやな兆候の前触れじゃなかったらいいんだが・・・・。
そんなことを考えていると、ヘリの音が聞こえてくる。人が考え事してるのにうるせぇな・・・
その音はだんだんと近づいてきて、日常生活では聞くことが出来ないほどになった。
「奴か・・・」
俺がそういったとき、俺の部屋の窓がノックされた。俺がカーテンを開けると、そこにはバイクの
ハンドルにプロペラがついたような機械で空を飛んでいる男がいた。
赤く短い髪に黄色い目、クリーム色のタンクトップと迷彩色の長ズボンといった風貌の男だ。
「アニキー」
そいつは俺を見ながらそういった、俺はおもむろに窓を開けると『サルでも分かる家庭医学
大辞典』を投げてやる。その分厚い書物は男の頭に命中し、男は落ちていき、怪しげな機械だけ
が天へと昇っていった。
やっと物語がマジメな方向に向かっているのに、あいつをここで登場させるわけには行かない
気がした。
ピンポーンと、インターホンのなる音が聞こえたが無視だ・・・・。
ピンポン、ピンポン、ピンポーン!!と3回ほど連続で鳴らされたが、無視していると、階段を上がって
来るようなドタドタという足音が聞こえてきた。
「アニキーー」
その声と同時に俺の部屋のドアは激しく開放され、バカ男が俺に飛び掛ってきた。
「鬱陶しい!!」
俺はその男に延髄蹴りを食らわすと、男は床にひれ伏し沈黙した。さて、出てきてしまったものは
仕方ないので、こいつの紹介をしておこうか・・・・。
こいつは鮫島 猛、俺たちはタケシと呼んでいる、俺をアニキと呼ぶが別に血縁
関係があるわけではない。年齢は俺より1歳年下で、エルルと同い年だ。
能力はさっき見た機械だ、魔力を使って機械を生み出す力と、現実的な力と非現実的な力が合わ
さった異形な力だ。
俺はさっさと宝石をしまって、そいつをずるずると引きずりながらリビングに降りた。
「たく・・・こいつは何をしに来たんだ・・・」
ちなみにだが、こいつと光喜の用事に付き合った日は、絶対によくないことが起きる。
現段階でメインキャラとなる最後の一人です。
今回はタケシがメインになればいいのですが・・・多分、3話は悠夜が全面的にメインです。