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♯2

やっと更新です

翌日、土曜ということもあり、暇を持て余した私は、特に何をするでもなく部屋にこもっていた。


冷蔵庫の食材もストックはあるので買い物に出る必要性も無し。


更にそれ程オシャレに興味があるわけでは無い為、街にも出ない。


これだけ聞くとつまらない人生に聞こえるだろうが…此処に来る前に比べればこういった平穏な時間さえ愛おしく感じる。


ただ、何も考えていないというわけではない。


「・・・・・・」


結局、昨夜のアイツは何だったんだろう?


思えば格好も今風…とは言えなかった。男性物の袴という出で立ち…それが良く似合っていて、まるで、戦国時代の武将を思わせる凛々しさがあった。実際に武将にあったことは無いけど。


一番引っ掛かるのが彼の言う『幽霊』という言葉。


「そこが一番胡散臭いのよね…」


幽霊。実に非科学的だ。私にとっては未確認飛行物体とか未確認生物とかと同じ位信じがたいものである。


一度気になり出すとこれがどうも気になって仕方ない。


そういえば今日も来るんだろうか?


「…問い詰めて正体を暴けばスッキリするのかな?」


私は思案しながらチョコレートプレッツェルを一本、くわえる。これは私のお気に入りのお菓子。何より手が汚れないのが良い。


毎月適当に様々なフレーバーを買い溜めしてたのだが、結局スタンダードに落ち着いてからはこのフレーバーしか食べていない。


「…ただ…もしこれからも来るのなら…」


毎回突き返すのは非常に面倒くさいのではないか…?


「…まあ聞きたいこともあるし…」


勢いで『二度と姿を現すな』位言ってしまっていた気がしないでもないのだが…


もう一度彼に合わない限りこの疑問を解決するのは非常に難しい。


「会ったことも名乗ったことも無いのに名前を知ってた…更には家まで知ってた…」


そういえば体の中に腕が埋まるってセクハラになるのか?


いや、仮にセクハラにあたるとしてもどうやって説明するんだ?


『この人の腕が体の中に入ってきたんです!!』


誰が信じるんだよ。そんなの…


…気分転換が必要かもしれない。


「こういうのはゆっくり考えるべきなのか…?でもあんまり長くあんなのと関わるのはやだな…」


そんなことを思いながらドアノブを回すと


「ひゃあっ!?」


突っ立ってた。


目の前に。


「あははっ♪面白い声だね。菜月ちゃん」


私は驚いて尻餅を付いてしまった。


「なっななな何でドアの前に突っ立ってんのよ!!」


「…?何でって勝手に入ったら不法侵入ってやつになるんでしょ?第一君が言ったんじゃないか」


「インターホンがあるだろうがっ!!」


私の言葉に青年は首を傾げる。


「インターホン?それより立った方が良いんじゃないかい?下の着衣が見えてるよ?」


「にゃあっ!?」


私は慌てて隠すとへたり込んだまま青年を睨み付ける。顔が熱いので恐らく真っ赤だ。というか何で今日に限ってミニスカートなのよ私っ!!


「…前世はネコ…?」


「黙れ。セクハラ魔」


「あはは…セクハラ魔とは酷いなあ…そもそも今のは君が勝手…に…」


私の冷たい視線に殺意を感じたのか青年は黙り込む。


「…何の用よ?」


二回も来るってことはそれなりに理由があるんだろう。


「ん?ああ、何の用って…昨日は追い出されちゃったからさ」


「…それで?」


私は未だに足に力が入らないため、へたり込んだまま青年を見上げる。こうやってみると更に背が高く見えるな。


「最近、嫌な夢を見るんだ。とても怖い夢でね」


「此処は人生相談室ではないわけだが」


「あははっ♪確かに。でも人生相談ってわけじゃ無くてね、夢の中では君は煌びやかな振袖に羽衣を着ていて、まるで一国のお姫様みたいなんだよ。そして僕は君を守る従者という立場らしくてね」


「…うん。やっぱり帰っ」


「今まで段階的に見てたんだけど、先日、君に似たお姫様が死んだ…目の前でね。夢なのにさ…僕にはそれが現実のように悲しくて…そしたら、今度はこの部屋の夢を見た。勿論居たのは君だ」


………………


「…僕、記憶が無いんだ。昔のことも自分のことも名前も…何も覚えていないんだよ。けれど…もしこの夢が現実で…これから見る夢が未来だとしたら…」


「もういい…やめて」


私は青年の話を遮る…


「…記憶喪失ってのは本当…?」


私が尋ねると青年は頷いた。


「…私もなの」


「え?」


「記憶喪失…中学までの記憶が無いの…小さい頃の記憶は無くなっていくものってのはわかってるんだけどさ…けど、名前まで忘れる…なんてこと、あるわけ無いじゃない?」


「菜月ちゃん…」


私は彼から視線を逸らしながら話を続ける。


「わからなかったっていうのよ…自分の名前も…それまで何処に居たかも…姉さん達がいなかったら…きっと家族のことすら忘れていたんじゃないかって…小さい頃のことで思い出せたのは母さんのこと位…それだけでも私には充分。同時に虚しくなったけどね」


「お母さんのことを思い出せたのに…?」


「…もういないから」


「…あっ…と…えーと…そのっ…」


青年はあたふたと見てわかるように慌て始める。視線を彷徨わせ、私を見ようとしない。


「…何慌ててるのよ?聞いたことなら別に気にしないから落ち着いて」


私の言葉に青年はバツが悪そうに「本当に…?」と確認を取る。


私はと言うと


「と言うか…何でさっきその反応が無いのよ?」


と寧ろ別件で反撃に出る。


「…さっき…?」


っ!?この男…


「…みっ見たでしょ?ついさっき!!」


「見た…って?」


この男っ!!


「だからっ!!下着よ下着っ!!」


「した…ぎ…?」


ぷっつん。


「言わせる気かお前はあっ!!何?私を辱めたいの!?女の子に何言わせようとしてんのよ!!この変態!!H・A・N・T・A・Iで変態よ!!わかった!?」


「おおぅっ!?英語だ!!菜月ちゃん頭良」


「ローマ字だバカ!!」


私の剣幕に流石の変態も後退りをし始める。


「ととととにかく…落ち着いて。ね?」


こいつとはこれ以上口も聞きたくない。私は無視してドアの鍵を掛けるとアパートの階段を降りる。


「あっあれっ!?どこ行くのっ!?待ってよ!!まだ話はっ!!」



{鎖雛、南地区自宅近所}


私の住むこの鎖雛は一言で言ってしまえば大都市である。日本という国でも正に中心とも言える程に発展し環境にも配慮した地域だ。但し一概に住みやすいとは言えない。


それを言うのも


「最近増えたよねーエクシード犯罪」


「報道される度に寒気がするよね。身近で起こってるって考えたら…そんなに大騒ぎにはならないのが不思議だけど」


「マンネリ化ってやつ?頻繁過ぎて感覚が麻痺しちゃってんじゃない?あたしら」


そう、エクシード。


その意味は常識の枠を越えるということで異能者達の能力の総称だ。但し超能力とは一線を置かれており、別物と捉えられている。


そのような能力を悪用する犯罪を総称してエクシード犯罪と 呼ぶのだ。中には凄惨な事件もあり、悲惨過ぎて報道を見送られる事件すらある位だ。エクシード所有者が相手となると警察では歯が立たないことがままある。


ならどうするかと作られたのが『自警団』だ。


仕組みは至ってシンプル。『目には目を。刃には刃を』だ。


自警団にはエクシード所持者を選出するのである。その為、所属している者はエクシード所持者が殆どでその選抜には厳しい審査が行われるのだ。


「でもあたしエクシードは欲しいけど自警団にはなりたくないなあー」


「同感。んで、どんなエクシードが欲しいの?」


「お金持ちになるエクシード!!」


「無いって。そんなの」


「考え様によってはあるよ~」


学生二人はそんな話をしながら携帯電話を弄って笑い合っている。


私はと言うと、椅子に座ってバスを待っている所だ。


件の青年は私の無言の抗議にも関わらず、ついてきている。


私は無言で彼も何も言わない。


何故彼まで無言なのかはわからないが(気を遣えるやつとは思えないし)私としても好都合なので放っておくことにする。


程なくしてバスが到着したのだが…


「おおっ!!バス来たバス来た!!」


子供かお前は。


バスが近付くにつれてはしゃぎ始める青年。


バスが目の前まで来て停車すると、私は椅子から立ち上がり車内へと上がる。


青年もてっきり入って来ると思っていたのだが…


「…………」


青年はペタペタと車外からバスを触りまくっていた。珍しいものに興味津々の子供みたいだな。あれ。


「あっ!?閉まっちゃった!?」


バカだ。


バスは焦る青年を置き去りにして走り出す。


青年はどんどん遠ざかっていき…見えなくなった。


「…解放されたかな」


私は座席で胸をなで下ろすと深く重い溜め息を吐く。


窓からは住宅街から市街へと移り変わっていく景色が見える。本来、様々な店が建ち並ぶ筈の鎖雛の街並み。


一瞬の浮遊感。


そして、私の視界は暗転した。



{鎖雛中央区事故現場}


目が覚めると私はバスの車外にいた。


正確には担架の上だ。頭を打ったのか少し頭が痛いが、腕も足も動くので他には特に外傷は無さそうである。


視界にはパトカーやら救急車やらが映っている。それとあの車は…


「お?目が覚めたようだな。お嬢さん?」


中年…と言うにはまだ早い男性が話しかけてきた。


「…あ…えーと」


「兄貴だ。修代志くんの後輩なんだから遠慮しなくて良いんだぞ?」


この兄貴こと兄貴さんは(本名は不明)鎖雛でエクシード専属自警団に勤めている男性だ。先輩の上司ということもあり、私も何度か会ったことがある。


と言うかここ最近は頻繁に会っている。


それを言うのも…


「君、今月に入って何回目だ?」


「…はは…これで三回目…でしょうか…」


そう…今月に入ってこの手の事故に遭うのはこれで三回目だ。


一回目はタクシーが急に突っ込んで来た。間一髪で私には当たらなかったが、運転席がひしゃげてタクシーのドライバーは亡くなったそうだ。これは単なる運転ミスと判断され事故として処理された。


二回目はコンビニに軽自動車が突っ込んで来た。運転手以外は怪我人が数名出た位だったが当の運転手はシートベルトを着用していなかったらしく衝突の衝撃で。フロントガラスに頭を強打し、亡くなったそうだ。これもアクセルとブレーキを間違った為に起こった事故と処理された。この時は偶然、先輩と兄貴さんも居合わせていた。だからこれで兄貴さんに会うのは二回目だ。



「今回も事故…ですか?」


「だろうな。やれやれ…君も災難」


「嘘」


私の言葉に兄貴さんは面食らったように困惑する。


「だったらどうしてこんなに早く自警団が対応してるんですか…?」


兄貴さんは冷や汗を流しながら唸る。


「…んー…やっぱり君、要注意人物なのかもな…本来ならここでポンっと返答が浮かぶ筈なんだが…」


「…答えが浮かばない位…普通ですよ。追い詰められれば」


「…そりゃあそうなんだが…オレの場合、そういう時こそ真価を発揮するっつーか…」


ああ、なるほど…


「要はそういう類のエクシードなんですね」


「…まあ…オレらが来てるのは一応だ……検証してみないと何とも…な?」


「…………」


「あの…そろそろ検査に向かいたいんですが」


気が付くと病院の方が申し訳なさそうに立っていた。


「おう?ああ、こりゃ失礼。そんじゃあな。お嬢さん」


「…はい。また…」



救急車が走り去っていくのを見つめながら兄貴は煙草を加えて火を付ける。彼は一度灰に取り込んだ煙を吐き出すとポツリと呟いた。


「『答えを導く者(アンサートーカー)』が効かない人間…か…」


彼のエクシードは『答えを導く者』…どうしようと覆らない事柄以外答えが出せない筈は無い…


だと言うのに彼女に疑問を投げかけられると不思議と答えが出て来ないのだ。


「…やっぱり普通じゃ無ぇよなあ…あの子」

次はいつ頃でしょうね…

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