#13
先輩と合流した僕は起こったことをありのまま説明した。藤咲が単純に買い物に行くだけでわざわざ別れを告げて行くとも思えないが、これ以上一緒にいれないという意味でなら納得もできる。まああくまでそこだけなのだが。
「これまでも幾つか気になる点はあったんだが・・・もう一度彼女の身辺を洗ってみるか」
先輩は胸ポケットから煙草を取り出し、火を付ける。事件現場で煙草を吸うのは流石にどうかと思うのだが、今はそれより、だ
「気になる点ですか・・・?」
正直、何も無いとは思ってはいなかったが僕にとっては出来た後輩と言った印象程度でしか無かったため今回の申し出といい、ここまで先輩が彼女のことを気にかけていることは意外だった。
「事件と関係してるか確証も無かったし言うつもりは無かったんだがな、こんな状況ではな・・・いや、でもなあ・・・」
先輩はやけに勿体振った様子だったが、その目は明らかに泳いでいた。ここはもう一押しが必要か。
「勿体振らないで教えて下さいよ。それとも言えない事情でもあるんですか?」
僕の言葉に先輩は観念したらしく、重い口をやっと開く。
「・・・今回の件、すまないがオレは情報収集位しか役に立てそうもない」
遠回しに返答したのだとは思うのだが、つまりどういうことだろうか?僕が知る限り、先輩以上に有用なエクシードを持った人間はいない。そう断言できるのも彼の 「答えを導く者」に尽きる。
彼の能力はどうしようと覆らないもの以外なら瞬時に最適な答えを導き出すというものだ。その彼が今回は役に立てないと言っている。
「何故ですか?既に先輩はエクシードで俺を藤咲の警備に着かせるという答えを・・・?」
先輩は床に座るとバツが悪そうに切り出す。
「逆だ。答えが見えないからお前を着けた。それに今回だけじゃない。あの子の質問や関連するものには答えられない。視えないんだよ。最初っからな」
答えが視えない。それはつまり彼女には答えを導く者が効かない。「対象外」ということだ。
「・・・そんな・・・藤咲はただの女の子ですよ!?先輩のエクシードが通用しないはず・・・無い」
あまりの事実に愕然とした。正直、信じられない。大体藤咲にしたってそんな何かを隠している節など全く見せて・・・
「修ちゃん、おじちゃ・・・「タバコ臭い」おじちゃんの言ってること、多分本当だよ」
声のした方に振り向くと、自宅にいたはずのミミが立っていた。ミミはいつになく、というか初めて見せる真剣な表情をしていた。
「ミミちゃん?今、言い直さなかった?言い直したよね?」
先輩は割りと傷付いたらしく苦笑しながらミミを問い詰めていたが、ミミは無視して話を続ける。先輩にはドンマイと心の中で言葉を贈っておこう。
「菜月お姉ちゃんの心、ミミも読めなかったもん」
ミミには人の心が読めてしまう。それが良いことであれ、悪いことであれ、意識しなくても流れ込んできてしまうのだ。故にミミが僕や、先輩以外に心を開くこと自体無かったのだが、思えば藤咲にはやけになついていた。
「と、なると・・・オレの予想はますます、当たっちまってそうだな・・・」
先輩は真剣な表情で思案する。その予想とやらは僕にもわかった気がする。
つまり
「藤咲には、エクシードが効かない・・・?」
先輩は「それは極論だがな」と言いつつも否定はしなかった。
「そういった類いのエクシードを所持しているのかも知れんということだ」
しかしそれが事実なら困ったことになる。彼女と戦闘になるとは考えにくいが、エクシードが効かないというのは捜索する上でも大きなネックだ。
「これはもう・・・警察の案件ですよね・・・」
納得はいかないがエクシードの案件を取り扱う僕達自警団の案件からは外れていた。単純な捜索になるならそれはもう警察の担当だ。
「そう落ち込むな。修代志くん。手は考えてある」
先輩は自信ありげに告げる。はて?警察以外の手があるというのだろうか。あ、待てよ?このパターンは・・・まさか・・・
「ミスリルに行け。修代志くん」






