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負け犬の遠吠え

 ケドネスさんと別れ、王子に今日について報告することがあると言われ、ずるずると引き摺られるようにして連れて行かれたのは王子の部屋だった。

 え?ガチで王子部屋?応接間とかじゃなくていいの?

『殿下が、応接間だと盗聴の可能性があるので、私室で話をすると仰っていました』

 別に聞かれても困るようなことはないと言うのに、殿下はどうしてこんなのを私室に連れ込むなんて仰るのでしょうか…。

 心の声聞こえてるけどー、いいんですかー?

「ミゲリアナ、シャク」

 ドアを開けると、少し緩い格好をした王子が微笑んで挨拶してくれた。

「ミゲリアナ!セシルタ…セシルタ…」

 あ、れ…。王子の名前、なんだっけ…。

 ちなみにミゲリアナはこんばんは、という夜の挨拶で、セシルタは王族専用の敬称。女性の場合はセシスタである。

「シャク…?」

「えー、えっと…」

 王子の名前、名前、名前…えっと、なんだっけ、その、おいしそうな名前…そう、おいしそうな…。

「セシルタ・ドリア!」


 バチン!!


「っ…!」

 今まで以上の衝撃が全身を貫いた。目の前がちかちかして、思わず膝をつく。

「っか、はぁ…」

 息が詰まり、必死で呼吸を繰り返した。

「クー、―――――」

 咎めるような声を出した王子に抱き起こされ、ソファに座らせれた。On the 王子の状態で。ぐったりした体で抵抗するものの、ものの見事にスルーされて終わった。

『大丈夫?』

 王子は私の頬に右手を当て、左手は私の体を支えている。両手が塞がっているのに、何故声がと思ったら、ソファの後ろから銀髪野郎が私と王子の体に触れていた。

『クーは手加減というものを知らなくてね』

『いえ、私が…悪いので…』

 心なしか、呂律が回らない。前の薬といい、ここの人たちは唐突だな、おい!

『名前、覚えてなかった?』

『…いえ、その………はい』

 ギンと私に向けられている殺気の量が増えた気がする。気のせいじゃない。

『ははは、いいよ。ウィーンテッドだよ、シャク』

『うぃーんてっど、王子…』

 発音が悪いのはご愛嬌って事で。

『…ってことは、これの名前も覚えてないんだよね』

 これと言って指差したのは、物凄い不機嫌そうな顔をした銀髪野郎だった。なんとなくやばい気がしたので、私は王子の上から降り、ソファに座って姿勢を正した。恐る恐る手を差し出し、王子と手を繋ぐ。後ろから前に回ってきた銀髪野郎は私の左隣に座った。

『…その、申し訳ないんですが』

『やっぱり忘れてたかぁ』

『………』

 銀髪野郎は気にしていないのか、何も言ってこなかったしガンもつけてこなかった。

 もしや名前を私に呼ばれたくないって事だろうか。

『でもそれじゃあ、不便でしょう?』

『あ、え、まぁ…』

 同意すると睨まれた。こいつ、やっぱり名前呼ばれたくないんだな。

『どこまで覚えてる?』

『……その…クーと』

 いやぁああああ!そんなに睨まないで!私だってあんたの愛称呼ぶなんて思ってないよ!呼べるのは王子だけだと思ってるし!だから、そんなに睨まないで!石化する!

『じゃあ、いいじゃない。呼べるよ』

『王子!』

『殿下!』

 二人の悲痛の声が響く。互いに違う意味でな!

『え、なにか駄目なの?』

 私は駄目です!確実に殺される!

『私はこのようなものに愛称で呼ばれたくはありません!そもそもクーというのは愛称でもありません!殿下が勝手に呼ばれているだけです!』

 このようなものってなんだよ!何様だよ!

『なにそれ、僕が悪いの?』

『いえ、そのようなことは…!』

『じゃあ、いいでしょう?』

 ぐぐぐ、と歯が折れんばかりに口を噛み締めている銀髪野郎に沸々と仕返ししようと言う悪戯心が湧き上がってきた。そんなに私に名前を呼ばれるのが嫌なんだな…?

「ふはははははっ!精々私に愛称で呼ばれて悔しがることだな!」

 ソファから立ち上がって、左手を腰にあて、右手をビシリ!と上から銀髪野郎…もといクー…クーさん?クーちゃん?クー君?を指差す。

 クー君はねぇな。

「あなたは…」

 王子を放置して、日本語での会話。

 なんかさっきより上達してっぞ、こいつ!しかも発音がネイティブに近付いてる!

「明日の授業…覚えておきなさい…」

 下から睨みつけられるも、今の私には脅威ではないわ!

「っは!負け犬の遠吠えだな!」

 くけけけけけ、と気色の悪い笑い声を上げる私を見ながら、クーさんは顔を顰めた。

 クーはそういう甘い飲み物があるし、クーちゃんって感じでもないので、愛称はクーさんに落ち着きそうだ。さん付けはなんだか釈然としないが、年上だし、ここは譲歩しよう。

「まけいぬのとおぼえ…」

 テレレレッテレーン!クーは新しく“負け犬の遠吠え”という日本語を覚えた!(ただし意味は今はわからない)

『ちょっとー、母国語で会話しないでー』

『ぐえっ…!』

 背後から抱きつかれ、私はクーさんの体にダイブした。

『殿下…!お退きください…!』

『えー、やだー』

 子供か!

『子供じゃないよ。だってもう25だよ?王位継げちゃうよ?まだまだ未発達のシャクには言われたくないなー』

『ってどこ触ってんだ!!』

 もぞもぞと動く手は徐々に前のほうに向かってくる。

 ちょ、こんな堂々とした痴漢しらねぇ!!

『殿下!たとえ、彼女が少年に見えようとも体は女性です!もしこのことがばれたら、殿下の評判が下がります!!』

 本気で焦るクーさんだが、私の体と王子の体を一緒に押しているだけじゃ、意味ないよ。つか、気にしてるのは評判だけか。女子を助けろよ。

『わかってるよ、本気にしないで』

『というか、私は別に未発達じゃないです!もう成熟してます!』

『えぇー?』

 抱き込む力を抜いた王子は、そのままぐったりと上に覆いかぶさってきた。

 重いわ!!

『クーさんならわかりますよ!お風呂入ってる時、見たでしょ!私の体!』

『!!』

 ほら、証明しろ!と顔を上げたが、クーさんは顔を引き攣らせただけだった。

『二人はもうそこまで仲良く…』

『最後まで話を聞け、馬鹿王子!』

 体を無理矢理捩り、のし掛かってくる王子の後頭部に手を回し、王子の長くて綺麗な金髪を思いっきり引っ張る。目の前のクーさんの眉が寄ったが、そんなこと知ったこっちゃねぇ!。

『いたたたた』

『私は23歳です!』

 きゅぴんと固まった二人に、やっぱり…と私は盛大に溜息をつく。私は脱力して、王子から手を離し、クーさんのお腹に顔を埋めた。

 くっそ、イケメンだからか、いい匂いがするぜ…。

『…やけに体が成長している少女だから、その、マッサージ師というのは建前で…娼婦だと思っていましたよ』

『2つしか変わらないんだ…』

 変わらないんだと言って、このクソ王子は人の乳を揉みしだいた。

『ぅおおおい!』

『で、殿下!』

『わ、意外とある』

 誰かこの王子に常識を教えてーっ!

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