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非常事態だから!

『す、すいません!背中の上で騒いでしまって!』

『やべ、幻聴だよ。あいつの呪いか?』

 あいつが誰だか知らないが、呪いじゃないです。

『あなたと言う人は…!!非常識極まりない人ですね!なにをどうしたら、私に頭突きをするという結論に至ったのですか…!』

『だから、これから素でいくって言ったじゃないですか!』

 どんどん手が出ますからね!

 ケドネスさんの上で踏ん反りがえっていると、ケドネスさんが寝返りを打った。

「ちょっ…!」

 落ちる…!

 土台を失った私は銀髪野郎に助けを求め、手を伸ばした。というか、寧ろ飛び移った。

『な、やめてください!』

『非常事態だから!我慢してよ!』

『嫌ですよ!…そもそもあなたは女性と言うことを意識しなさいっ!』

『女だと思ってないのはどこのどいつだ!』

「――――…」

 目をごしごし擦りながら、無言で暴れまわる私たちをケドネスさんは不思議そうに眺めていた。

『とりあえず、降りてください…!』

「っぶ!」

 額をパーンと平手で打たれ、勢いで仰け反った。そのまま銀髪野郎にしがみ付いていた手が離れ、私は背中から倒れた。

「うぐぅ!!」

 頭を打たなかったのは幸いだったが、背中を強打した。息が一瞬詰まり、苦しさにのた打ち回った。のた打ち回る私の手を銀髪野郎無理矢理取り、ケドネスさんとの会話を成立させようといた。

 ちょ、乙女が涙目で苦しんでるんだから、少しは心配しろよ…!

 乙女と言ったものの23の女はもう乙女じゃないと思う。

『は?なんだよ、これ』

 ケドネスさんは不審そうに銀髪野郎と繋いだ手をぶらぶらと振った。

『ケドネス団長、彼女と会話するための手段です』

『あぁ…お前の魔術か』

 銀髪野郎は魔術を使って私を起こし上げ(しかも雑)、ケドネスさんと手を繋ぐように訴えかけてきた。

『痛い…マジ痛い。この国にはレディファースト…じゃなくてフェミニストはいないのかよぉう』

 フェミニストもなんだか意味的に合ってない気もするが。

『貴女、何を言ってるんですか』

 レディーファーストやフェミニストと言う概念は…あるかもしれないが、向こうの言葉に変換できるものはないのだろう。だから、銀髪野郎が日本語で呟いていたところを見るに、そのまま日本語で伝わったみたいだ。

 あぁ…またこうして意味を理解して日本語を覚えていくのだろうか…。

『で、俺はどうして会話をせねばならない?』

 私と銀髪野郎の会話をぶった切り、ケドネスさんが最もなことを聞く。

『私は不本意にも彼女の教育係をしているのですが、仕事の都合上、週に二日ほど行うことが出来ません。その時間を、あなた方騎士団に任せたいと思いまして』

 不本意てなんやねん。誰のせいやと思てんねん。

『はぁ?』

 というか、騎士団ってなんだよ。私はなんも聞いてないぞー。

 私の気持ちは伝わっているはずだが、銀髪野郎は私のほうを見向きもしなかった。

 っけ。話すだけ無駄ってか。

『なんで、俺がガキの子守をせにゃならんのだ』

 寝台の上で胡坐を組み、不服そうな顔をするケドネスさんに銀髪野郎が満面の笑みを浮かべた。その笑顔に青くなった私と同様に、ケドネスさんの顔も引き攣っていた。

『副団長の許可は得ています』

『げ』

『今日、副団長はあなたをお探しになっていまして…それはもうご立腹のようでした』

 ケドネスさんの渋面から考えるに、日常茶飯事のことなのだろうけど…団長ってそんなに自由な行動をしていていいのだろうか?部下というか、兵士の強化とかは団長の役目では…。つか、副団長に怯える団長ってどうなの。あー、だからこそその人は副団長なのか。恐るべし、副団長!

『副団長が言うには、“その客人が団長の逃亡を阻止できるなら、騎士団に置くことを許可しましょう”との事でして』

 なにそれ!知らないうちになんか巻き込まれてるんですけど!!団長の行動とか阻止できるかっ!

『だったら、尚更許可できるかよ!』

『あぁ、そうでした。許可と得にきたわけではなく、“報告”でした。申し訳ありません』

 こいつ…!

 銀髪野郎の腹黒さに感服するほどポカーンとしている私を銀髪野郎は一睨みし、ケドネスさんにもう一度微笑む。

『今日は私もあなたを探すのにかなり時間を割くこととなってしまいました』

 あれ?疲れで目がおかしくなったかな?銀髪野郎の背後に禍々しいものが見えるな…。あぁ、なるほど。これが魔力ってやつか…。

 現実逃避をしていると、ケドネスさんは苦悶に満ちた顔をし、呻き声をあげなあがら小さく頷いた。

『…好きにしろ』

『ありがとうございますね』

 銀髪野郎は作られた笑みを浮かべ、ケドネスさんから手を放した。

『さ、帰りますよ』

『え?迎えに来てくれたの?』

『あなたの頭じゃ、どうせ道なんて覚えていないと思いまして』

『あとで覚えとけよ!この銀髪!!』

『なんですか、あなたは見た目で人を差別するのですか?あと敬語はどこにいったのですか』

『たった今なくなった!』

『あなたは私より年下でしょう。最低限のマナーだと思いますが』

『もし私が年上だったらどうするよ!』

 ぜってーそれはないだろうけど!

 無言で手を繋ぎながらギリギリと睨みあう私たちは、傍から見たりゃ相当おかしいのだろう。ケドネスさんはなんとも言えない顔をしていた。その顔に気付いたのか、銀髪野郎は行きましょうと言った。

「―――――――キヴォイア・ケドネス、トリヴォータ」

「とりぼーた!」

 トリヴォータはさようなら・また明日/今度・お元気で、という意味である。キヴォイアは恐らく敬称であるシスタでないのを考えると、団長とかそういう意味なのかな?

 ケドネスさんを見ながら、銀髪野郎に手を引かれる。もうちょっと歩く速度落としてくれたっていいのにな。

「…トリヴォータ」

 疲れた顔のケドネスさんを見て、そう言えばまともにマッサージしてやれなかったな、と少し後悔した。

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