表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/34

私事

 それは唐突だった。

「…え?」

「貴女の帰還日が決まりました」

「………」

「あと少しの間でも養生していってください」

 去っていくクーさんの後姿を見ながら思ったのは、ついに追い出される日がきたのかということだった。

  ・

  ・

  ・

「よぉ」

「ぅお!」

 自室でボーっとしていると、いきなり目の前にナチさんが現れた。

「この前は逃げてくれてどーも」

「その節は……すいませんでした」

 この前、ナチさんと会って取り乱したときの話だ。彼は私の状況を知って、妊娠していないと言うことを告げようと親切心から現れたのだが…恐怖のあまり抵抗した私とそれを助けるべく魔方陣を展開させたクーさんにより、甚く機嫌を損ねられたようだ。ようだというのはミリティアちゃんから聞いたのだ。機嫌を損ねて神殿に引き篭もってしまい、神殿の方々を大層困らせたらしい。ナチさんは毎日神力というものを捧げているらしいのだが(神力は人間が生活するのに必要不可欠なエネルギーらしい。よく理解が出来なかったので色々と端折ります)、引き篭もったが故にそれもしなかったらしい。自然災害が頻繁に各所で起こって政治問題に発展するところだったようだ。

 …本当にすいませんでした。

「まぁデリケートな問題なのに勝手にことを進めようとした俺も悪いと思うけどー」

「…はぁ」

 ナチさんはいつもの調子に戻ると、私が座っているベットの上に寝そべった。気付かれないようにある程度の距離をとっていく。また勝手にフラッシュバックして絶叫するのは嫌だ。何が嫌って、まだ立ち直れていない自分に嫌気がさすのだ。いや、まだ立ち直っていなくて当然なのかもしれないが…それでも私は私が嫌になるのだ。

「帰るんだってね」

「…えぇ、そうみたいです」

「いつ?」

「次の満月の晩……えっと、一週間後?かな?」

「ふぅん。それでいいの、シャクは」

「いいも何も私は帰るしか…」

「クーラドヴォゲリアは?」

「え?」

「好きなんでしょ?」


 間。


「えええええええ!!」

「なに、ばれてないと思ってた?」

 顔を伏せて悶える私の背中を、背を起こしたナチさんがつんつんと指で突いてくる。やめれ!今は相手にしている暇はないんだ!

「ウィーンテッドもわかってると思うけどー」

「うぃーん…なに?誰?」

「うわ、かわいそー。まぁ、これであっちの困った王子も諦めてくれるね」

「あー……はい」

 あのことがあって、求婚してきた王子のことはすっかり忘れていた。いや、忘れていた訳ではない。忘れようとしていたのだ。主に原因が彼にあるから……でも、それは彼にとってはどうしようもない話。関係はないわけじゃないけれど。

「で、帰るの?」

「え…帰りますけど」

「クーラドヴォゲリアは?」

「…それでも帰りますよ」

 どうしようもないですもん。世界が違うのにどうしようもないですし。

 そう言うとナチさんは起こしていた背を再びベットに横たわらせた。

「世界を超えた愛はないのかー、おー、神よー」

「…何が言いたいんですか」

「別に結ばれて欲しいなんて思ってないけどさー」

 思ってないんかい。それはそれで嫌なんだけど。

「ちょっとあいつに一矢を報いたいと言うかさー」

「私事?!」

 驚きのあまりベットから滑り落ちた。距離をとろうと、隅っこぎりぎりに座っているのが仇になった。

「なにしてんのさ」

 と、こちらも見ていないナチさんに力でベットの上に戻される。心なしか先ほどより近い距離で。バレてーら。いやでも、ちょっとした女心をわかっていただきたーい。少し怖いのですよー。

「まあさ、告白してよ」

「え、ちょ、それ私にメリットないじゃないですか!」

「え。受け入れてもらえるチャンスじゃん」

「その可能性がどれだけないと思ってるんですか!」

 憤怒する私にナチさんはあちゃーとデコをパチンと抑えた。

「クーがシャクのこと好きだってわかんないのー?」

「すっ…」

 ナチさんの言葉に一瞬にして顔が熱くなる。

 ひー!やめれ!期待さすな!

「自分でも気付いてるんじゃないの?」

「うーん…好いてもらっているのはさすがにわかりますよ。でも、それが恋愛感情か甚だ疑問です。私には、親しい女子だと思われている気がします」

「どうだろ。詳しくは俺もわかんないからね」

 なんだお前。そこで違うよとか言われたら思わず、告白しちゃおっかなきゃぴるん☆とかなっていたであろうに。まぁ彼からしたら一矢報いだけであって、告白が成功しようがしまいがどうだっていいんだろう。クーさんの焦った顔とかが見たいだけなのだろうから。

「まぁ俺のことは俺が今後どうにかするにしてもさー、言いたくならないの?」

「…好きって?」

「そう」

「そりゃ言いたくなりますよ」

 言いたくなりますけど……色々と障害があって言う気にならなくなるんですよ。

「障害か…まぁなー」

 ナチさんは苦笑した。苦笑した後、どこからともなくお菓子を出現させ、私のベットの上で食べ始めた。やめろ、汚れる。せめて座れ。

「告白かぁ…」

 もし受け入れられたとしてもだ。そのままここに残るだろうか私は。このまま残って、もし別れた時どうすればいい。時間が経ってあちらに帰ったら色々と支障をきたす。主に仕事関係。ほかには対人関係とか周りの話についていけないだとか、問題はたくさんあるだろう。それにもし、結婚前提のお付き合いに発展したとしても……私は日本での生活を捨て、一生両親に会わないままこちらで過ごす決意が出来るのだろうか。

「あぁああああああああああ!!」

「いきなりなに」

「決めた!」

「ん?」

 私、言い逃げします!

あと2話くらいで終わるはず。いや、終わらせる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ