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自惚れてもいいの?

あばばばば!

この前活動報告で500件超えた!意味わからん!的なこと言っていたのですが、今現在900件を超えています!

なんでだかよくわかりませんが、お気に入り登録ありがとうございます!

 あの後、王子は自ら退出していった。何を思ったのか、王子は私が帰る日まで会わないと告げていった。…今の王子が私を本気でほしいみたいだから申し訳ないのだが、会わないと言ってもらえたことに少しホッとしている私がいた。現実はまだ…見たくないのだ。見れるほど傷は癒えていない。

 王子のことがあってから、クーさんはますます私の監禁に勤しむかと思ったが、予想とは逆に彼は私と距離を置くようになってしまった。部屋にずっといられることは正直辛かったのだが、いなくなったらいなくなったで話し相手がいなくなったことは素直に寂しい。まぁ寂しいからと言って、私が部屋から出ることは禁じられているのでどうすることもできないのだが。



 王子が来訪してから一週間。そろそろベット生活にも飽きてきた。メンタル以外の面に関しては全回復している私からすれば、毎日体操やストレッチだけじゃあ体を動かした気にもならない。とにかく動き回りたい!

 コンコン

『はい、どうぞ』

 暇を持て余している所に来訪者が。どうせミリティアちゃんかクーさんなんだけれども。

「おはようございます」

「あ、おはようございます、クーさん」

 クーさんの姿は3日ぶりくらいに見る。ただ少し痩せたように見えるのは気のせいだろうか?

「お久しぶりですね。私の部屋でお仕事をしなくなって、何日が経つでしょうかね」

「この部屋で仕事をすると仕事が捗らなくて困っていたものです。場所が移れて本当によかったです。誰かさんのいびきがうるさかったので」

 口の悪さは変わっていないようだ。さすがクーさん。最早こうじゃないと落ち着かない。

「ところで、今日はどんなご予定で?」

「……貴女のことです」

 クーさんの真剣な口調に体が硬直した。これは…私の体のことについて、そしてこれからのことについての話だとすぐにわかってしまった。さっきも言ったように、私はまだメンタル面ではまったく回復できていないから、この手の話はかなりきつい。

「貴女には酷な事をします……ですが、見なければいけない現実もあるのです」

「や、めて…ください」

 手で耳を押さえて膝に顔を埋めた私をクーさんはどんな顔で見ているだろう。憐れみだろうか?それとも同情をして苦悶に満ちた顔をしているだろうか?どんな顔だってどうでもいい。私にはクーさんのどんな顔も今は見たくないから。否、どんな顔をも…見れない、が一番正しいのかもしれない。

「サクラ」

「いや」

「サクラ」

「いやっ!」

「サクラ!」

「嫌だよ!!やめてよ、クーさん!」

 まだ…嫌だよ!

 私の悲鳴のような声はクーさんの胸板に吸い込まれた。硬いものに抱きしめられて驚いて目を開くと、クーさんが私を抱きしめていた。

「く…」

「…どうして嫌がらないのですか」

「え…?」

「…これがどういう意味なのか…私が、これをどう捕らえていいのかわからないじゃないですか…」

 クーさんの言っている意味がわからなかったが、とりあえず私はクーさんが怖くない。それだけは自信を持って言える。

「…もう貴女には時間がありません」

「どう、いう…意味ですか」

 クーさんが私の肩を持って、距離を作った。少し歪んだ表情のクーさんに私は見下ろされていた。

「…もうすぐ術式が完成します」

「………」

 さすがの私にもわかってしまう。何が言いたいのか。どういうことなのか。…私を帰らせるための術式が完成すると言うことだ。

「だから…現実に、向き合えって…?」

 私の体に子が宿っているか一刻も確認しなければならない。そして、どっちであろうと、帰るためには立ち直らなければならない。

「………」

 私の声は震えていた。怒気からなのか悲しみからなのか。ただ、胸の軋みだけは痛いほどはっきりとわかった。

「クーさんは…クーさんは……私に…いち早く立ち直ってもらって…早く、帰って欲しいだけでしょ…?私がっ…私がここにいることがっ…傷物の私が王宮にいることが迷惑なんでしょ…!?」

 私は、そんなに強くないですよ…?

 最後は涙で声が震えてしまった。誰にも言いたくなかった。誰にも弱さを見せたくなかった。でも、もう限界だよ。もう…辛いよ。

「…違います、と言っても貴女は信じないのでしょう?」

「なにを…信じろって…言うんですか…」

 泣く私にクーさんはいつものように困った顔をした。私を泣かせることを承知の上で、クーさんは今の台詞を言ったのだろう。クーさんが立場上そういうことをしなきゃいけないこともわかる。クーさんもやりたくないことだってわかる。でも、でも、やっぱり…一番は…。

「私のことを…考えてほしいです…」

「…サクラ」

 だって…だって、私は…まだここにいたいもの。だって、まだ…まだ、私はクーさんのそばに…。

「っ」

 驚きで涙が一瞬にして止まった。そして、私は目の前に立っている困った顔をしたクーさんを凝視してしまった。

 え…え?ちょ、待て私。え?マジで?

「な、なんですか…?」

「………」

 とりあえず目の前にいるクーさんに抱きついてみた。うん、怖くない。でも…ドキドキもしない?

「サクラ?」

 名前を呼ばれると嬉しい。もっと呼んで欲しい。

「クーさん」

「…はい」

「しゃがんでください」

 困った顔から怪訝な顔に表情を変えたクーさんは大人しく私の指示に従った。そのまま腕を引いて私のベットに座らせた。

「サクラ?」

 怪訝な顔するクーさんの上に私は座った。座って抱きついた。

 うううん。胸板薄いな。

「…なにをしているのですか、と聞いたほうがいいのですか」

「ちょっと待ってください。確認中です」

 首に手を回して、クーさんの首筋に自分の顔を埋めた。

 いい匂いがする。落ち着く。ずっとこうしていたい。いい肌してる。すべすべしてる。気持ちいい。

 すりすりと頭や顔をこすり付けていると、上から盛大な溜め息が聞こえて我に返った。

「…何の確認かは聞きませんが、確認はできましたか?」

「あ、はい。できました。すいません。セクハラでした」

 クーさんからどいて、ベッドの上に正座した。

「…とりあえず、泣き止んだので良しとしますが……私が言いたいのは、貴女に早く帰れと言いたいのではありません。…こういうことにもなったので、貴女も早く帰りたいと思いますし…その、帰る前に……ゼアラル神の神子であるナチア…様に貴女の胎内を…見ていただこうと思ったのです」

「胎内を…」

 クーさんはベットの上で正座する私を真剣な顔で見つめながら静かに頷いた。

「彼は生命の波動を感じることができるのです…ですから、その……」

 もし、もし貴女の胎内に新しい生命が宿っていれば、彼はそれを感じることができるのです。

 その言葉に顔が強張った。背筋を嫌な汗が流れ落ちる感触がした。…彼には、私が妊娠しているかどうかがすぐにわかってしまうということだ。

「本来ならば、すぐにでもすべきでした。こういうことになった場合長引かせることはよいことではありません。」

 私の、我儘です。貴女がより深く傷付いていく姿を見たくなかったのです。

 クーさんは苦しげな声で言葉を紡いだ。

「…それをするもしないも貴女次第だと言うことです」

 クーさんはそう言うと立ち上がって部屋を出て行こうとした。だが、私はそれを制した。

「クーさん…一つ、聞いてもいいですか」

「…はい」

 クーさんは立ち止まるだけで、こちらを振り向きもしなかった。だが、私はそのまま続けた。

「…もし、もしもです。わ、私のお腹に…新しい、命が宿っていれば…その、クーさんは…どうしますか?」

 数秒の間の後、クーさんは背を向けたまま答えた。

「…もちろん、受けいれますよ」

 クーさんはそれだけ言って去っていた。彼がいなくなってすぐ、私はベッドに倒れこんだ。いるかいないかわからない腹部を撫でる。

「…どういう風に受け取れって言うんだよぉ」

 私はあなたが好きだと気付いたのに。自惚れてもいいの?

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