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クーさんのデレ?

 あんな目に遭い、あれ以降泣き明かして暮らした…なんてことはない。強制的に泣くのを止めさせられたといえばいいのだろうか。クーさんに王宮に連れて帰ってもらってからベットで目を覚ましてすぐに泣いてしまって、不安になったミリティアちゃんがクーさんを呼んでしまい、監視生活が始まってからは泣かないようにした。悲しくてつらいのは事実だけど、人様に迷惑をかけたくないという思いが一番強かった。これが日本人クオリティというものなのか。

 あれから一週間が経ったけれど、クーさんの監視は解かれそうにない。最近じゃあ私が寝ている部屋で仕事をしだすから、私がゆっくりと休めない。なんてこったい。本末転倒じゃないのかこれは。

「…なんですか。こっちを見ないでください」

「すいませーん」

 最初に泣いたとき、困った顔をして私の前で跪いていたクーさんは幻だったのか。優しかったのは、泣いていたときだけだったような気がする。でもまぁ、こうして傍で監視しているということは心配しているからなのだろう。

「今日は殿下の訪問があります。できれば着替えてください」

 机に向かったまま手を休めることなく、私に向かって言い放った。

「訪問?お見舞いってことですか?」

 おみまい…と呟いたクーさんは脳内でお見舞いの意味を調べていた。つまり、日本語のお見舞いはこっちの言葉でどういう意味なのか、ということである。上達しすぎだ。

「そうですね…おみまいです」

「何時ごろに?」

「…そろそろかと」

「ええええええ…」

 もっと早く言ってよ~…。

 着替えるべくベットの上からノロノロと這い出した。お腹もすいたんだけどな。

「…寝ている人を叩き起こせと言うのですか」

 つまり………私が寝ているから寝かせておいてあげようということで起こさなかったってことですか。なにこれ、クーさんのデレ?

「あ、ありがとう…ございます?」

「本当に」

 クーさんに後ろを振り向くなと言って服を脱ぎ始めた。この一週間パジャマから着替えてないからね。まぁ、毎日お風呂入った後に違うパジャマには着替えているんだけど。

「あ、な、た、は!!別室で着替えるという選択肢はないのですか!」

 バキリという音がして上のパジャマを脱いだ状態で振り向くと、背を向けたクーさんの手に握られていたペン(おそらくインクをつけているから万年筆とかそういう類のものだと思う)を力任せに折った音だった。

「だって…別室ないじゃないですか」

 最初の頃にいた客室は広くて嫌だとごねて、今は使用人などが使うような(それでも一番いいやつ)部屋を使っているため部屋は一つしかない。あとはお風呂だとかトイレだとかがあるだけだ。

「貴女がこの部屋がいいと我儘を言わなかったらよかった話です!」

「…そんなに怒らなくても、振り向かなかったらクーさんに害は」

「そういう問題じゃないでしょう!」

 ガタン!!と勢いよく立ち上がったクーさんは振り向いて私のほうに近付いてきた。脱いだ服で前を隠した状態(ブラジャーはこっちに来てからつけてないし、さらしも寝るときはつけてない)の私の肩をクーさんは掴んだ。

「え…?」

 なんですか…。

 という声が部屋に静かに響いた。

「…私が怖くないのですか」

「はい?」

 怖い?え、それはいつものことじゃないですか?

「え、えと、その、怒ってないとき以外は…その、怖くないです、私は」

 そう言うと、クーさんは眉間に眉を寄せた。

 なぜ怒った!!

「…違います。この状況で、私に…男にこうやって触れられていることです」

「………」

 肩に置かれた手がゆっくりと動き、首の上を滑るようにして頬へたどり着いた。頬を両手で挟まれ、顔を上げられた。クーさんの綺麗な緑色の瞳にじっと見つめられた。

「怖くないのですか」

「……怖くないです」

 そう言うと、クーさんはまた怒った顔をした。

「私が、ですか。それとも、私が男として見れないから怖くないのですか」

 クーさんが男だってことはわかってる。わかってるけど…わかってるけど、怖くない。なんて言えばいいのか。クーさんに性的な恐怖を味合わされそうにないと確信しているから怖くないと言える…そう言えばいいのだろうか。

「…クーさんは怖くないです」

「………」

 私の返事をどう受け取ったのか、クーさんは溜め息を吐いて、私の肩に、ベッドの上に放置されていたショールをかけた。

「…殿下を呼びに行ってきます。10分ほど経ったら戻ってくるので、それまでに着替えておいてください」

「はい」

 クーさんはいつもの無表情に戻って、私に背を向けて部屋から出て行った。

  ・

  ・

  ・

『シャク』

『王子』

 着替えてベットの上に腰をかけて待っていると、王子が幾分かラフな格好をして部屋に入ってきた。

『体調はどう?』

『平気、ですよ。私、元気です』

『そう』

 隣に腰をかけた王子は私の肩を抱いた。その行為に、ドアの近くで立ったままのクーさんの眉間が寄った。いや、これくらいなら大丈夫だよ。

『シャク、俺はね。本当は君を本気でほしいと思ってなかったんだよ』

『はい』

 私もわかっていたよそれくらいは。

 肯定を返すと王子は苦笑して、私の肩をもっと引き寄せた。

『でも、今はね違うんだよ』

『どうゆー、こと、ですか?』

 ボロボロにされても元気だと言って泣かないようにしている姿が凄く素敵だと思った。

 王子の言葉にひどく動揺した。

『最低だよ、僕は。そんな姿を見て、君をほしいと思った』

 でも欲しいと思ってももう手に入らない。

 王子は私の首に唇を寄せた。

『あっちの国と一緒。君を召し上げることはできないから』

 熱い吐息が首にかかる。

 それは…私が…傷物で………その、もし…もしかしたら、私のおなかの中には…。

 ぐるぐると考えていなかったことが頭を駆け巡る。王子が話している声も聞こえてこない。あの男の、姿や犯されていたときの記憶がふつふつと沸き上がってくる。

 私は穢されたのだ。私は、子供を宿した、汚い女…。

『殿下、それ以上は』

 ぐい、と王子と引き離され、少し我に返った。見ていなかった…見たくない現実を突きつけられ、私は泣きそうになっていた。あれから見せていなかった涙を。

「ぐふ」

 クーさんのお腹に顔がいきなり押し付けられた。少し滲み出ていた涙がすべてクーさんの服に吸い込まれる。

『…殿下。もう少し言葉を選んでください』

『…そうだね、ごめん。手に入れたいものが、絶対に手に入らないってわかるとさ……自分の手で壊したくなったんだよ』

『…殿下』

 後頭部に回されたクーさんの手にグッと力がこもった。

王子って僕口調だったっけ?

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