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愛しのクー

先週もお休みして申し訳ありませんでした。

最近、曜日感覚が狂ってしまい、気付いたら月曜日でした。

 城に着いたと同時に待ち受けていたのは、笑顔の王子。

 あぁ、私死ぬんだ。と思った。

『やぁ、シャク。おかえり。城下は楽しかったかい?』

 笑顔が恐ろしい…何で、そんなに怒っていらっしゃるの…?

 背に腹は代えられない私は、私を抱き締めている異国の王子から自分の体を抜き取り、身長が高いクーさんの背に隠れた。

『ん?なに?そういう遊び?』

 あかん、あかんでこれ。王子、マジで怖い。この前ナチさんと戦ってるときみたいな、炎が見える。え?幻覚?そんなバナナ。

『殿下、シドヴァルガ国の第一王子、アーサー=キルジェ=シドヴァルガ殿下にございます』

 オールスルーのクーさんは、王子の身分を説明しながら、私を自分の目の前に引きずり出したとおもったら、背後から首を絞めてきた。

 っちょ!ギブ!脚浮いてますから!ストップ!!

『貴様、それでも…宮廷魔術師なのか…?』

 アーサー王子の目がクーさんを貫く。どうやら、私の扱いについて聊か…否、かなり疑問を呈していらっしゃるようだ。

『殿下、目障りだと言うことなので退出いたしますが』

『いや、いい。シャクは俺が苛める』

「はっ?!」

 私、苛めるって何?!私のこと!?いっつみー?!

 むしろなんで苛められなきゃならん?!

『よーし、来いシャク』

 クーさんに放り投げられて、王子の前に顔面スライディング。もう女子扱いを求めるとか言わないから、人間扱いしてください。本当に。

『よーし、お手』

 もう訳がわからない。が、王子の目が笑ってないので、大人しく王子の差し出された右手に自分の左手を乗せた。…こっちの言葉なんて理解してないフリをすればよかったのか。

『さぁて、アーサー殿下』

 腕を引っ張られ後ろから抱え込まれる。驚きのあまり硬直していると、このセクハラ王子は案の定セクハラをしてきた。

「うへぇ!!」

 逃げようとするものの、ガッチリと腰に手を回されて逃げること叶わず。

 これ王子だからって許されることじゃないよね?余裕で犯罪だよね?

『せ、僭越ながら…ルクドリア国の王子よ…。婦女子の…その、む、胸を公衆の面前で…揉むのは如何なものかと…』

『公衆じゃないからいいんじゃない?』

『よくない!』

 助けてクーさん!マジで!ガチで!このセクハラ王子をどうにかして!

 クーさんは思い切り無視してきたが、いっそ呪ってやろうかと思うくらい睨みつけていたら、物凄く嫌そうな顔をして、一つ小さく溜息を吐いた。

 願いが通じだぜ!

『殿下、そのような行為はさすがに犯罪かと』

『…ナチアなんか生だったからまだよくない?』

『『よくないっっ!!』』

 アーサー王子と被った。驚いてアーサー王子を見ると、顔を真っ赤にして震えていた。

 い、怒りを鎮め給えー……もう誰かが怒ってるのも誰かに怒られるのも嫌なんですが。

『殿下、やはり話が進みません。退出いたします』

 パッとクーさんが手を上げると、私の右手から魔方陣が浮き上がった。

 いつの間に?!

『…独り占めはよくないよね』

 セクハラ王子の最後に聞こえた言葉は謎だが、クーさんと二人きりになったところでまだ依然として気まずいのだけれども。ミリティア~!いつも逃げ回ってるけど、今来て!すぐ来て!愛しのエ…愛しのクーがいるからっ!

「楽しそうなところ邪魔して申し訳ありません」

「い、いえっ、助けていただいてありがとうございます」

 もうつっこむ気力もない。

 言葉と同時に礼をするが、クーさんは特に何も言わず、転移した部屋の椅子に座った。どうやらお疲れの模様。

「大丈夫ですか。メイドさんでも呼びましょうか」

「いいです。むしろ煩わしい」

 漢字まで習得し始めたクーさんを見ていると最近、私がこの国の文字を習得するのとか10年くらい掛かるんじゃないかと思う。悲しい。

「じゃあ……僭越ながら、マッサージでも…如何でしょうか」

 そう言うと、物凄い嫌な顔をした。

 そ、そこまで露骨に顔に出さなくても…。

「いえ、嫌ならいいんです…」

 と言って、柄にもなくしょげながらクーさんとは離れた3人掛けのソファに座った。しょぼーん。

「…はぁ。腹が立つのでその顔やめなさい」

 酷い。腹が立つって何だ。…まぁしょげてる人間の顔って私もいい心地はしないな、と思い直してキュッと口を引き締めた。

「手持ち無沙汰なんでしたら、“せくはら”にならない程度にまっさーじしてください」

 未だにカタカナは苦手なようである。微笑ましい。だが、ここで笑顔を見せること莫れ。恐ろしい顔で睨まれるのはこの1ヶ月の間に経験済みである。

「はい、わかりました。香油がないので、服の上からのマッサージになります」

 クーさんの背後に近付き、そっと肩に手を乗せる。

 意外と肩幅が広い。なんというか、草食系男子だと思ってたし(ただし、中身を除く)。

「肩、凝ってますね」

「ええ、誰かさんのせいで仕事が増えていますし」

 今後も増える予定ですからね。

 えーと…あれか。鼠の件か。いや、あれは仕方がない。勿論仕方がない。というか、交換条件だからむしろオッケー。

「えー……私のことをしていただいている身ですし、マッサージならいくらでもやらせていだだきますが」

「貴女に係わると面倒なことが多いので却下したいところなのですが…」

 その言葉を切ったクーさんを不思議に思い、手を止めると叱られた。手を動かせと。

「このまっさーじは…本当に、気持ちがいいものですね」

 ホッと息を吐いたクーさんに少し嬉しくなる。いつも厳しい顔をしている人が安らぐって本当に嬉しい。元の世界でマッサージしてても、そう感じた。仕事帰りの強面のオジサンが、マッサージが終わった帰りに微笑んでくれる時とか本当に嬉しかった。

「…俄然やる気が湧いてきました!」

「そのやる気を語学に費やしてください」

 …一言が多い男だ、本当に!

 お互いに貶し合いながらマッサージを続けているとドアがノックされた。クーさんから離れて元の位置に戻ると同時に、クーさんはどうぞ、と言った。

『私だ』

『…宰相殿』

 クーさんは立ち上がって、宰相さんを出迎えた。これは私も立つより他ない。

『…すまない。休んでいるところ』

『いえ、待機中でしたので』

『そうか。…殿下がどうやら先ほどからシドヴェルガ国の殿下と争っているようだ』

『…争っている、とは』

『剣と剣を交えてる』

 クーさんは盛大な溜息を吐いて頭を抱えた。宰相さんは気の毒そうな顔をして、クーさんの肩を叩いていた。

 マジあの王子たち何やってんの。

『もうすぐ復活祭だ。それまでに解決しておいてくれ。…シドヴェルガに求めるものなんてほぼないに等しいが、繋がりはあって困るものではない。穏便に頼むぞ』

『…御意に』

 宰相殿を見送ったクーさんの怒りの矛先は私だったなんて酷すぎると思いませんか?

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