ずきゅううううん
先週はいきなり休んで申し訳なかったです。
爆発音と激しく揺れる部屋に怯える少年たちに、片言であるが必死で檄を飛ばす。いきなり現れた(全裸の)女に少年たちは目を見張っていたが、私の拙い言葉を必死で聞いていた。可愛いなぁ。
「こっち!あっち、危ない!くーさん、魔術!国一番!」
王子を抱きこんだまま少年たちへ指示を出していると、急に背後から首を絞められた。
「っぐ!」
何とか視線を下に移すと、太い腕が私の首に巻きついているのが見えた。
『…どっから湧いてきやがった』
「っぐ、はぁ…」
苦しさに漏れる息と声に、首が少し緩められた。
『お前が呼んだのか?美しき忠実なるルクドリア国の犬・サレッドを』
美しい従順な国の犬?なんだその厨二的なネーミングは。笑うぞ。つーか、されっどってなに。
『だったらなに』
だが、美しい国の犬と言えばクーさんのことなんだろう?ここで怖気づく私じゃないんだから。
強気に言うと、ぐいと後ろに引っ張られ、腕の中の王子が零れ落ちた。
「っ…!」
首を持ち上げられ、背を反らす格好になってしまったが、なんとか王子の無事を確認しようと、視線を王子のほうへ移すと、自分が全裸だという事実が判明してしまった。だが、今は恥ずかしがれる状況じゃなかった。首を絞められているだけじゃなく、頬に当たる冷たい感触は、ここに来たときに初めて王子に突きつけられたものと同じだろう。嫌な汗が背を流れた。
『いい体してんな…』
するり、と荒れたごつごつした腕で太股を撫でられた。
「っ」
嫌悪に顔が歪むのを、男は哂った。男の顔に見覚えがないところを見ると、逃げて言った幹部たちではなく、指示を出していた幹部の一人だろうか。
『まぁ、早くしねーと』
あいつが来るな。
そう言うと、男は私を少年たちのほうに投げ飛ばし、王子と対峙した。
「王子っ!」
少年たちがあわあわと抱き留める。飛び出そうとする私を、少年たちは必死で引き留める。
『お初にお目にかかるな。シドヴァルガ国、王位継承第一位にして第一王子・アーサー=キルジェ=シドヴァルガ王子よぉ?』
『貴様っ…刺客か…!』
やばい。王子さんたち自国語で話し始めちゃったよ。何喋ってるのかわからない。が、王子が危ないことだけは限りなく感じることは出来るぞ。
『第一王子が攫われるなんて滑稽だな?しかもこの組織…ははっ、笑えるなぁ?』
『……ダルジアの依頼か?』
『さぁな』
王子と対峙している男は薄汚れているが、かなりワイルドで男臭くて、しかも、意外とイケメン。正直言うとすんごいタイプだ。やべぇ…あの上腕二頭筋触りたい…。あ、背筋もいいなぁ…。ていうかあの腕で触られたのか…。
いかん、いかん。あれは王子を狙う暗殺者っぽいから、敵なんだ。だから、王子を守らねば…。
と私が一人モンモンとしていると、私のドストレートな男は王子のほうへ、剣を投げつけていた。男の手にはもう一本剣が。つまり…正々堂々勝負しようぜってこと…?
ずきゅううううん
あ、やばい。私の心臓打ち抜かれた。私の裸を見てぐへぐへ言っちゃうところとかもいい男じゃないか…!やだ、どうしよう…!
とかハァハァ言っている間にギィィイインという音が響いた。ハッとした時には、二人は刃を交わらせていた。歯を食いしばる王子とは対称的に、男はニヤニヤしながら楽しそうに王子の太刀を受けていた。
そういうところもいい…!
瞳を滾らせる私に、最初は心配してくれていた少年たちは徐々に離れていく。しかし、私の気持ち悪さに引いたわけじゃなかったようだ。
「なんですか、その顔」
バッシーン!
「いだいっ!!」
びっくりするくらい無表情のクーさんが現れてみんな怯えて逃げていたみたいだった。そして、私の頭を思いっきり頭打った音で、戦っていた二人は動きを止め、こちらを見ていた。
『どうも、刺客殿。私も招待してくださるのですか?』
ぶわっ、と風がクーさんの周りで巻き起こり、赤と青の光がクーさんを包み込む。風が少し飛び出して伸びてきて、私の頬をするりと撫でたかと思うと、一瞬にして私は先ほど着ていた服を身に着けていた。
『冗談。あんたなんかと遣り合って、ルクドリアを敵に回したくねーよ』
クーさんが背後に魔術を展開すると、刺客はスッと剣を仕舞った。男の潔さに再び、ときめく私。そろそろクーさんに電撃を食らいそうだと、理性で必死でニヤニヤする顔を押さえ込めた。
『じゃあな、第一王子。また依頼されたその時まで』
『ま、待てっ…!!』
男が動いたと同時にクーさんは魔術を男に飛ばしたが、男はそれをわかって逃走を図っていたらしく、足元から落ちるようにして彼も魔術で消えた。男の頭のちょっと上を掠っていくクーさんの魔術。クーさんは下へ落ちていくとは考えていなかったようだ。
『…甘く見てしまったな』
クーさんは悔しそうに顔を歪めたが、すぐに無表情に戻った顔を王子に向けた。
『アーサー王子』
『…誰だ』
『私は、ルクドリア国宮廷魔術師、クーラドヴォゲリア・サレッドと申します』
されっどってクーさんの苗字か。
『王子、我が城へおいでくださいませ』
『…わかっている』
クーさんは王子向かって背を折っていたが、肯定した王子に興味をなくしたように視線を外すと、私を見下ろした。
「貴女、本当に変態だったのですか」
「…なんの話でしょう」
ふっ、と笑ったクーさんに子供たちが悲鳴を上げる。笑顔まで子供を怖がらせるとかある意味凄い。とか言っている場合じゃなく、クーさんに頬を捻り上げられた。
「いいいだだああだっ、いだだあだだ!!」
「!!」
私の声に王子が目を剥いていたが、クーさんは無視を決め込んでいた。
「今から、兵士たちがここへやってきます。帰りますよ」
『お、お前っ…!婦女子に何をっ…!!』
「あの少年たち二人に会いたいと思って、先に縛って城へ転送しておきましたよ」
王子ガン無視。やめてあげて、可哀想。そして、日本語に『?!』って顔してるから。
「さぁ、立ちなさい」
首根っこを掴まれ無理矢理立ち上げられると、王子が慌てて私をクーさんから剥ぎ取った。
『貴様っ、…!』
『今から転移します。私のどこかに触れていてください』
わお、まだ無視続行なの?それでいいの?仮にも王子だよ、この人。
とりあえず、王子はクーさんに触りたくないようだから、私がクーさんの服の裾を握り締める。
『大丈夫ですかっ…?』
王子に抱き込まれてしまった。が、ここは可愛らしい反応をすべきだろうか。
『こんなっ…こんな!私を助けるために、男装までして…髪まで切ってしまうなんて…!』
ちゃう、ちゃうで、王子。あんまりわかんないけど、間違えてることはわかるぞ。ていうか、その目、どっかで見たことあるぞ。
『大丈夫です、今度は私が守ります』
あ、ドリア王子と一緒の目ぇしてるぞ、これ。




