猫にしてほしかった
あけましたおめでとうございます。
ちょっと間が空きました。が、今年も頑張ります。
「ちゅう~…」
どうしてこんなことに…。
私は排気口から連れ去られた少年たちが押し込まれている部屋を見つめていた。鼠の姿で。
「ちゅちゅ~う…」
鼠のままで悲壮感を漂わせても虚しいだけだ。
私をこの姿にしたのは誰なのかを言わなくてもお分かりいただけるだろう。
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楽しいことをしようと言った鬼畜魔術師に警戒した状態で近付いた私は、腕をがっちりと掴まれて逃げれないようにされてしまった。嫌な予感がして引き攣ってしまう私の頬を無視して、奴は私に攫われた王子を助けに行けと仰ったのだ。
王子?は?あのセクハラ王子?
と素で聞いて電撃を食らったのは言わずもがな。あのドリア王子ではなく、この大陸の西部に位置する小国の王子らしい。王子が攫われた情報はこの国に入ってきていないらしいが(まぁ、そんなことを他国に伝える国はないと思うが)、その王子を助けて恩を売ろうぜって事です。外交とか有利になりそうですね、王子が王になったときとか。
その時に有無を言わさず私は鼠に変えられてしまった。希望としてはよくある猫にしてほしかった。ほらよく、気付いたら猫にだとか生まれ変わったら猫に、とかあるじゃない。
「ぢゅ?!」
「お似合いですよ。ところで、貴女には四方の壁に魔方陣を貼ってきてもらいたいのですが」
もっと心の篭った褒め方してよ!
クーさんの手乗り鼠と化した私を憐れみの目を向ける赤毛少年と驚きの目を向けるたんこぶ少年。
お前ら代われ。
「貴女に四回分、魔方陣を書き込めるように施しておきます」
「ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ」
日本語を喋ったつもりがまったく駄目だった。だが、天才のクーさんにはちゃんと伝わっていたらしい。まぁ腹立つとか大人なんで言いませんとも、ええ大人なんで。
「そうだと思って、北から順に貴女の瞳にだけ道標が現れるようにしておいたので」
用意周到ですな。
そして、鼠と話をする天才美人魔術師の絵ってシュールですな。
「ちゅうちゅちゅちゅ?」
「舐めればいいですよ」
「…ちゅーちゅちゅちゅちゅーちゅちゅ?」
「ええ」
鬼畜!この男鬼畜の何者でもないぞ!
なんて心の中で口走っていたら、内臓が飛び出さんばかりに握り締められた。
て、手加減をしてつかーさい!
いつでも心が聞かれるって言うのは、辛いものだ。
「いいですか。貴女が大人しく四方に魔方陣を刻み込めれば、後は私に任せてください。あのような犯罪者、私に掛かれば容易いものです。それに、貴女が成功すれば袋の鼠となるんですから」
ですから、貴女は仕事を全うしていただければ結構ですので。
そう言って、私を降ろしたクーさんを私は下から睨みつけた。
「…ちゅちゅちゅ?」
「…は?」
「ちゅちゅちゅちゅー、ちゅちゅちゅちゅ!」
ギロリと黒くてつぶらなマイアイでクーさんをもっと強い力で睨みつける。一瞬詰まったクーさんだったが、一般ぴーぽーだったら卒倒するような瞳で私を見返してきた。慣れって怖いね。
「…貴女を元の世界に帰す道をあと一ヶ月で作って差し上げましょう」
「ちゅちゅ」
忙しくて、この一ヶ月でまだ半分も進んでいないような進行レベルなのに、やると言ってくれたクーさんに俄然やる気が湧いてきた。便器でも涙を呑んでなめてやらぁ!
「では、お願いします」
少し微笑んだクーさんにちょっと吃驚した。
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そんな訳で、私が排気口から覗き込んでいるのは、最後の道標が指す場所に魔方陣を刻む機会を窺っているからなのだ。北・東・南と物置だったり壁だったりしてかなり楽だったのだが、最後は少年たちがいる部屋。しかも、道標が指し示す方向にはボスらしきがっしりとした体でヒゲもじゃ且つ汚い男が座っているのだ。
あいつの背の壁が最後の場所なのに…!!
不用意に近付けば、思いっきり潰されそう。この国の鼠ってなにやら今の姿を見る限りデカイし。
なんてモンモン考えていると、ボスらしき男の前にニヤニヤした男が綺麗な服を着た青年を引っ張ってきた。もしやあれが王子?
『へへへ、綺麗な面してるでしょう?』
『はん、中々上物だな?』
『離せっ!』
スラング過ぎてわからないがあの下世話な笑みを見ていると、大体の話も想像がつくというもの。
「ちゅう…」
じっと見つめていると、いきなりボスが青年の綺麗な服を切り裂いた。
「?!」
待て待て待てーい!
周りの少年たちも怯えて小さく悲鳴を上げていた。
『先にヤっちまうか』
『やめっ…!』
怒りで鼠の毛が逆立った。私は勢いよく排気口から飛び出し、少年たちの間をすり抜け、ボスを目指した。
『っわ』
『鼠?』
少年たちなど目も入らず、私はボスの背後の壁を目指した。
『お頭っ、鼠が…』
ニヤニヤした男が私に気付いたがもう遅い。私は光の示す壁を歯を立てながら舐めた。
「ちゅうううううううううう!!」
私の雄叫びと共に家が激しく揺れた。
「な、なんだっ…!」
ボスの手下たちがワラワラとドアの外に走っていき、少年たちは怯えて泣き叫んだ。ボスはニヤニヤ男(おそらく幹部か何か)と共に裏口に繋がっているのか、手下たちが走っていたドアとは反対方向のドアにまで逃げた。
なんつー情けない男だ。
ドォウン!!
「王子!」
『っえ?!』
王子の手を掴んだ…私はいつの間にか元に戻っていた。王子の手を取ると、すぐにまた爆発音が響き渡った。クーさんも少年たちに被害がないように攻撃しているだろうが、この音を聞く分に盛大にやっているんだろうとは思う。だから、私は王子を庇う為自分のほうへ引っ張った。胸の辺りに王子の頭を押し付け、身をおおう。
『っ!…あのぉ!!』
王子、ちょっと黙ってろ!命が惜しくないのか!
私は自分が鼠の姿から戻って全裸だって事に気付いていなかったのだ。
鼠台詞の振り仮名読みにくくてすいません。