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フラグなんてへし折ってやる!

「うぅうう~…」

 ずびずびと鼻を啜り、涙は垂れ流しの状態で、クーさん…いや、兄ちゃんに手を引かれ、市場の中を歩く。泣いているのはかなり目立つため、異世界と言えどもさすがおばちゃん。お店の商品をポンポンと私に手渡してくれた。恐らく、「ほら、泣き止みな!」とか「これでも食べて元気だしな!」的なことを言っているんだと思う。おばちゃん、早口だからちょっとだけしか聞き取れなくてね。

 片手をクー…兄ちゃんに引っ張られて先導されつつ、もう片方の手で食べ物を持って、周りを見渡す。手を引っ張られているため、辺りを見ながらでも歩いていける。やっぱり市場は楽しい。ブラボー、庶民!ただ、時々クー…兄ちゃんのイジメで人にぶつかるように仕向けられる度に視線を戻さなくてはいけないのが面倒だ。

 涙も乾いて、泣いた痕跡だけが残る顔になった頃、兄ちゃんの手に力が入った。

「ファシア?」

「サクラ、―――――――っ…―――っ!」

 急に人だかりが出来て、兄ちゃんが何を言ったか聞き取れなかった。もう一度聞きなおそうとする前に、お姉さま方に囲まれた兄ちゃんと距離が出来てしまった。

 ちょ、お姉さま方!豊満なボディで私の体挟まってますから!

「っちょ、っう…」

 さらにお姉さま方に押され、ギリギリで手を繋いでいる状態になってしまった。というか、繋いでいると言えない。指しか絡まってない。

 も、指に力入んないよっ…。

 案の定離れた手に、私はどうしようかと思っているところで、クーさんとは違って私はおばちゃんたちに囲まれた。

「え…」

 囲まれてそのまま店の椅子に座らされる。ここ、屋台か何か?

「――――――?」

 キョロキョロと辺りを見ていると、おばちゃんたちの一人に話しかけられた。

 え、と、チヴォア ファシアとか言ったな…。チヴォアって義理だっけ…違うな、あ、従兄弟?だっけか。

「ゼア!」

 厳密に言えば違うが、それを説明するだけの力は私にはない。というか、そもそも似てない。

 長い沈黙があったものの、おばちゃんたちは気にすることなく私の頭を捏ね繰り回した。どういう意味の撫で回しかはわかんないけど!

『その子は少し、人との会話が不慣れですのでっ…!』

 クーさんの声が聞こえる。ん、と…?その子、会話、難しい。ああ、私と会話するのは難しいぞとおばちゃんたちに伝えているのか。さすが、クーさん。目が行き届いてるぅ!

 こんなことを言っているとクーさんにばれたら電撃ものだと戦々恐々としているところへ、おばちゃんが声を張り上げる。

『心配しないで、あたしらに任せておきな!なぁに、心配はないさ!大丈夫だよ!』

 私たち、任せる。安心、大丈夫。

 おお、おばちゃん素敵!私の身柄はおばちゃんたちによって保証されたようだ。というか、なんでクーさんはお姉さま方に囲まれてるの?

 疑問に思い、近くにいたおばさんの裾をちょいちょいと引っ張る。

『なんだい?』

『おばさん、なんで、兄ちゃん、囲む、お姐さん』

 と、単語単語で言ってみる。いや、助詞で繋げてるけど、うまく言えてる自信はない。

『ん?天下の宮廷魔術師様が来てるってわかったら誰でもああなるさー』

 えー…国、一番上、お城、魔術師、来る、誰でも、あれ、なる。

 なるほどね!やっぱ、宮廷魔術師は有名人って事でしょ!

「ゼア!」

『あんた、いくつよ?』

 え?ドルマン…年齢?

「あー…トモス ヴィ トクトマ…」

 っは!違う違う!私は今、15だった!

「トクトマ?」

「No,nonononono!!!」

 思わず英語で返してしまったが、頭を左右にぶんぶん振っていることで間違えたと言うことをわかってもらえた。なんとか15と言えば、先ほどよりも増しておばちゃんの庇護が厚くなった。何事じゃい。

『あんた、でも、あんな人が従兄弟だなんて凄いねぇ』

 あの人、従兄弟、凄い。

 って、あれ?なんか、クーさん正体ばれてる…?気付くの遅いな、私。

 思わず靴を脱いで、座らせたもらってる椅子の上に立ち上がって、クーさんを見てしまった。が、変装状態は維持されている。あれ?なんで?

『こら!危ないでしょ!』

「みぎゃ!」

 おばちゃんに渾身の力で引き摺り下ろされ、頭を殴られる。うぅー…痛いよぉ。だが、愛のパンチだ。クーさんの殺気を纏った抓りとは雲泥の差だ。

 ところで、

「兄ちゃん、隠した。なんで、わかる?」

『あん?そんなの、あんな別嬪がこんなとこ歩いてたら一発でわかるさ。あの人の顔は、知れ渡ってるからね』

 美人しか聞き取れなかったが、つまりそういうことなんだろう。あんな美人はクーさん以外いねぇと。王子は、甘いマスクだけど、美人ではないな。普通に美形だ。

 ガサリ…

「ん?」

 きゃあきゃあというお姉さま方と可愛い子(おそらく10代の少女)たちがクーさんを囲って騒いでいるのを、おばちゃんたちと眺めていると、後ろでガサゴソと何かを漁るような音が聞こえた。

「…あ」

 後ろを振り返ってみると、10歳くらいの薄汚れた少年が屋台のゴミ箱を漁っていた。

 しょ、少年…!なんと…!私も今は少年扱いだが、お金なら持っている!奢ってやろう!

 この少年に私が奢ってやろうと、これから彼の人生が変わるわけではない。貧しさから抜けることは出来ないだろうが、今日の空腹から助けることは私にだって出来る。

「少年!」

「っ…!」

 必死で口の中に詰め込んでいた少年は驚いて、体を縮める。殴られたり怒られたりすることが日常茶飯事であることを表していると思うと、少し胸が痛む。

『私、殴る、ない!』

 どや顔満載で言うが、そんなこたぁどうでもいい。

『なにか、食べる、もの、買う、あげる!』

 通じていないのか、少年は私が何もしてこないのをいい事に一目散に逃げてしまった。

 あぁ、くっそ!

「ここで一人追っ掛ける私じゃないんだぜ!」

 少年狩りに遭うフラグなんてへし折ってやる!

 日本語で思いっきり呟いてしまったが、そこはご愛嬌。

 少年を追いかけるため、兄ちゃんの救出をすべく、お姉さま方の群れに突っ込んだ。

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