不敬罪で死刑にしますよ
あれから特に何もなく、時々騎士団に預けられながら私のマッサージ師生活は続いていた。常連客もつき、口コミで時々貴族様なんかも来られる。ふくよかでにこにこしたおじさまなんかを相手にするときは凄く楽しいのだが、如何にも興味本位で来ましたみたいな顔をする貴族やお前が王子の新しい愛人かみたいな顔してやってくる貴族もいたりして、かなーりやり辛い。貴族の綺麗なお嬢様がきたときはどうしようかと思った。粗末で高い台の上に、貴女その格好で乗れるの?みたいなね。ええ、結局乗りませんでしたとも。顔と体をじろじろ見て帰っていきましたよ。恐らく「こいつ女か?本当に王子の客人?」ってところでしょう。慣れましたよ、その目線!この世界…いや、この国の女性の基準に合わせてやるような私じゃないんですよ。郷に入れば郷に従え?無理矢理入れたのはどっちだ!
ということで、この前肩につくくらい伸びてたので、ミリティア(最初に会った美少女天使メイド)にはさみを借りて、バッサリ耳の下まできってやりました。あの時のミリティアちゃんの顔はすごかった。呆然とした後、悪鬼のような顔をして私からはさみを取り上げてどこかへ行ってしまわれた。恐らくクーさんにチクリに言ったのだろう。
そんな訳で益々私は少年に近付き、幼く見られるようになった。そこに関してはマイナスポイントだが、尊厳は守れた気がするのだ。この前、鏡を見てみたら高校生だったときの髪型とそっくりだった。
そしてそして、スカートを断固拒否し、ズボンを貫いた。これはこれで再び、ミリティアちゃんと無駄な攻防戦を繰り広げることとなった。彼女は盲目的にクーさんを信じており、彼が言った言葉が例え間違っていようとも信じるぐらいの信用っぷり。何を言われたのか知らないが、スカートを無理矢理穿かせようとしてくる。それも今ではいい思い出だ。
王子につけられたキスマークをすっかり消え、私が落ちてきてから一月が経った。
「って、をおおおおおおおい!」
「なんですか、いきなり」
うるさい。と顔に書いたクーさんが私を睨む。
「自分で回想入れておいてなんですけど、もう一月経っちゃったんですが!!」
「はぁ?何が言いたいのですか」
クーさんの冷たい目線にもかなりの耐性が出来た。ミリティアちゃんにとっては、睨みつけられる私が羨ましいらしい。恋する少女は最早怖い。
「クーさん、本当に私が帰るための準備してますか?!」
「はい、今のをこちらの言語で」
「え、っと…キルティ スピア シルア クー リーペアリ…ってちがぁう!」
「何が違うんですか、合ってましたよ。ちなみに、『本当に』はリーペリアの前につけるのですよ」
「え、あ…はい。じゃなくて!」
ちなみにこの男は、私の電子辞書を奪い、全部コピーしていた。
くっそ。電池がなくなれば終わりだと思っていたのに。
つまり、私がこちらの言語を必死こいて勉強している間に、クーさんは日本語が堪能になってしまった訳である。
「なんですか。私に髪のことで怒られたいのですか?それとも服装のことですか?」
「そんなドM精神を私は持ち合わせてないです!そもそも、髪や服のことで怒られる筋合いはないです!」
「髪の短い女性は大体同性愛の女性の現れですが、構いませんか?」
「っう!…同性愛に偏見はないですよ、私は。たとえ、クーさんが王子に横恋慕をして、王子を魔術で縛り上げて犯そうとも、私は全力でクーさんを応援します!頑張れ、王子!」
「不敬罪で死刑にしますよ」
ッチ。冗談が通じない男だ。
「とりあえず、髪は伸ばしてください。今のままでは、貴女はいつか少年狩りに遭いそうです」
「少年狩り?」
おい、兄ちゃん。俺、お金ないんだよね~。貸してくんない?
みたいなことですか。
そう言うと、クーさんに頬を抓り上げられた。
「いたたたたたた!!」
最近、この人魔術じゃなくて直で攻撃してくる。
「いってー……で、具体的には何なんでしょう」
頬を擦りながら窺うと、呆れたクーさんがは渋々ながらも説明をしてくれた。
どうやら最近、市井の少年たちが忽然と消えているそうだ。10歳ごろから18歳くらいまでの少年たちが持っていた荷物だけを残して消える。この前は、貴族の青年が(おそらく10代)街に出てそのまま帰ってこなかったそうで、貴族の間でも恐れられている、らしい。
「労働力のためですか?」
「…この前いなくなった少年が遺体で発見されたのですが、男娼をやらされていた痕跡があったと」
「…少年狩りが行われるほど、男娼に需要があるのですか」
男娼をおばさんが甚振る姿は想像できない。気色の悪い笑みを浮かべた油ぎっしゅで女にもてなさそうなおっさんが可愛い少年たちを甚振る姿が想像できてしまう。
「少女だと、孕むからではないでしょうか」
「なるほど…」
少年だと孕まないから…なんつー短絡的な思考の奴だ。
「そうだ、今日、ミリティアちゃんと城下に出ようと思っているんですけど、いいですか?」
「…今の話を聞いた結果の台詞でしたら、今から私は貴女をどうすればいいんですか」
クーさんの真顔に私も至極真面目に答えてしまった。
「…調教、ですか?」
「わかっているのなら、そこに直りなさい。鞭で叩いて差し上げましょう」
「待って待って待ってください!!…でも、ミリティアちゃんと一緒ですし」
「むしろミリティアが危険に晒されるでしょう」
やっぱりか。あんな少女、誰もが攫いたいと思うわ。
「えっと、その、じゃあ、王子を護衛役に…って嘘です、嘘です。ごめんなさい、すいません」
クーさんにあわや首を絞められるところだった。えーえーえーえー、じゃあ…
「ケドネスさん!」
「副団長からの許可が下りません」
「んー、ナッツォ君!」
「副団長からの許可が下りません」
なにそれ、テンプレかなんかなの?
「うううーん…ナチさん?」
「彼は現在、神殿で一月“ゼアラル神復活祭”の準備でいません」
“ゼアラル神復活祭”…クリスマスみたいなもんかな?
「えええええ…じゃあ、私が護衛しながら行きます」
「貴女は私を怒らせたいんですか」
「そんな訳ないじゃないですか!」
「……仕方ありません。…私が行きます」
「は?」
私の言葉にクーさんの額に青筋が浮かび上がった。
「ですから……貴女方の護衛として私が行きますと言ったのです」
なにそれ、苦行?