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打ち首?火炙り?水責め?

 ッゴ!

 とりあえず、右手が出てしまった。

「っつー…」

 小奇麗な顔が苦痛に歪むのは少し優越ものだが、殴った後で後悔した。

 巫女殴っちゃったよ、おい!

「ごごごごご、ごめんなさい」

 ビンタなんて可愛いものじゃなくてごめんなさい!

「大丈夫ですか?痛くないですか?」

 って痛いだろうな。

「…なんで殴るかなぁ」

「なんでって…正気かどうかを確かめるのと、イラッとしたのと…」

 まぁイラッとしたのが8割方占めているのだけれども。

「なんでイラってするの?」

「なんでって…」

 適当に求婚するような男に、怒りを抱かずして何を抱く。いや、嘘っ…!嬉しいっ…!なんて感想は出てきませんよ、可愛くないから。

「それにしても、殴るってぇー」

「すいません」

「じゃあ、妻になる?」

「嫌ですよ」

「なんで?うーん…セックスする?」

「はぁ?」

 なんですかこいつ。もう一回殴っていいですか。

「すいません、いいですか」

 また手を出しそうになったところで、クーさんが面倒臭そうに割って入ってきた。

『あなた方の結婚するしないはどうでもいいのですが、私と殿下はまだ政務がありますので、戻りたいのです。誠に遺憾ながら、彼女も連れて行かねばなりません』

 どこら辺にクーさんにとっての遺憾があったのだろうか。なんだ、あれか。政治家の微塵にも思ってないことの演技へたくそバージョンか。

「なに?クーラドヴォゲリア、邪魔するの?」

『結局の所、邪魔する事になるのが誠に遺憾です』

 本当に、本当に、残念なことに。

 ふぅー、と残念そうな顔で溜息をつく。

 そんな演技をする彼になにやら恐怖さえ覚える。

『彼女は、一階の“傀儡の姫”の庭園前の間で午後になれば会えますから。今日のところは、引いては下さりませんか、“色欲の君”…いえ、ゼアラル神の神子よ』

 恭しくナチさんの前で膝を着き、クーさんは頭を垂れた。

 ここの神様の名前はゼアラルって言うんだね。何の神様なんだろう。やっぱり創造主?それにしても、クーさんが下手に出る姿は相手をおちょくってる様にしか見えないのは何故だろうか。これって私の先入観かしらん?

「…萎えた」

 そう一言だけ残すと、彼の寝室なのに、彼は一瞬にして消え去った。

「わー、便利ー」

 アホっぽい発言にイラッときたのか、勢いよく立ち上がったクーさんに二の腕をガッチリ掴まれた。

 痛い痛い痛い。ギリギリ締まってる、締まってる。

「…帰りますよ、来てください」

「っ、はぁーい」

 大人しく従った私にまた苛立ったのか、大股で王子の前に歩いていった。

『クー、手を離せ』

『…っは』

『…力の加減ぐらいしろよ』

 王子によってクーさんの手は私の二の腕から離れた。が、会話のためにクーさんは一歩下がって私の肩に手を添えた。そして、王子の体に申し訳なさそうなぐらいに触れていた。

 私の二の腕は、赤くはなっているだろうけど、あんまり痣にはならないと思う。なんせバレー部だったからね。ボールなんて日常茶飯事でぶつけられてたよ!イジメじゃないよ!本当に!

『シャク、痛いなら痛いっていいなよ?』

『はい』

 ダボッとした袖だったもので、肩まで王子に捲られた。袖を肩に手を置いていたクーさんに持たせ、王子は赤くなっているところを王子の細くて長い指で撫でてきた。

『痕にはならないと思うですし。大丈夫ですよ、王子』

 つーか、擽ってぇよ。

 そう言うと、王子は不満そうな顔をした。

『どーして、俺だけ名前じゃないかなぁ』

『名前?』

『クーもあの頭ん中お花畑のナチアは、愛称で呼んでるのに』

『…そう、ですね』

 …王子の名前覚えてないとか言えない。

『…覚えてないの?』

『(ああああああああああ!)』

 声に出せない悲鳴を上げる。出せてなくても王子たちには通じているのだけれど。というか、私の馬鹿!さっき自重しようって考えたのはどこのどいつだよ!私だよ!

『そんなことないですよー』

 あははーなんて笑ってみるものの、王子の目は据わってる。

 やばい、打ち首?火炙り?水責め?

『…そんなことしないよ』

 なんて言ってる王子の目は妖しく光っている。

『動かないでね』

『………』

『返事は?』

『はい!』

 私が元気な返事を返すと、王子はくすりと笑った。その笑みに、私の腕は鳥肌が立ってしまった。

『鳥肌…寒いの?』

 私の返事は求めていないのか、王子は一人で楽しそうに腕に指を添えていた。痣と手首を何度も指で往復していたと思うと、いきなり顔を伏せた。

『ちょ、王子!!』

 私の制止も虚しく、王子は赤くなっている二の腕に真っ赤な舌を這わせた。

『っ…!』

 ぞわぞわした感覚が背中を走る。伏せられた目を王子は私に向けてくる。その挑発したような瞳に、私は息を飲んだ。

『…お仕置きだよ』

 王子は赤くなっている部分に歯を立てた。しかし、痛くもなんともない。ただの甘噛。

『ぅう…』

 私の二の腕が王子の涎でテラテラし始めた頃、助けを求めてクーさんを見たが、クーさんは私の瞳をじっと見つめるだけだった。

 なんでだよ!結構長い時間舐めてるよ、この王子!いい加減止めろよ!

『…こっち見て』

 ガリ

『――っ』

 少し強く噛まれ、体が跳ねた。それに満足した王子は焼けずに白い私の二の腕の内側、つまり柔らかい贅肉のオンパレードの部分にきつくキスマークを付けた。

『ちょ、王子!!』

『白いし柔らかい。結構残るんじゃない?』

 そう言って、満足そうな笑顔を王子に向けられ、私が苦情を申し立てようとした瞬間、私たち三人の下に魔方陣が広がった。

「っえ」

 グッとクーさんに肩を抱き寄せられ、驚いて顔を上げると、「帰ります」と無表情な顔で一言だけ言われた。

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