艶かしい人
「―――――っ!!」
「へぇー、そうなんだー」
「―――――?」
「んー、どうだろ?」
少年と手を繋いで(なんでかは知らないけど、たぶん子ども扱いしてることだけはわかった)、馬小屋の前まで私たちは歩いてきた。日本語変換では馬ということになっていたけれど、小屋の中にいたのは明らかに馬じゃない。なにこれ、怖い。目が金色で黒い毛というところはカッコいいのだけれども、その鋭い牙と唸り声のような声は何だ。仰天している私を他所に、言葉が通じていないということは丸無視で、説明をし始めた彼。名前が、ナッツォ・カーベルトだと言うことだけはわかった。そして現在進行形で、小屋の掃除をしながら、彼はマシンガントークを吹っかけてくる。
「シャク、―――― ドルマン?」
「ドルマン?」
えーっと、ドルマンってなんだっけな…この前この単語覚えたな。
「トモス ヴィ トクトマ!」
「トクトマ?」
えーっと、トクトマは数詞で…アイヴィ、トクトマ、ラリオ…20か。あー、ドルマンは年齢だった。つまり…
「君、二十歳なのか」
少し驚いた顔を見せると、満面の笑みを見せた。
どや顔されても、私より年下なんですけどね。
「トモス ヴィ トクトマ-ラリオリィ」
というと彼は目を丸くして、口を大きく開けた。
「――――――!!」
言葉は通じてないが、確実に私を馬鹿にしている言葉だと言うことはわかる。叫び終わると、ナッツォは私の胸をガン見し始めた。
あんたこれ他の女の子にやったら、ビンタくらっても文句言えんぞ。好きな女の子だったら確実に嫌われるな。
いつどのタイミングで殴ってやろうかと思案していると、馬と日本語変換されるデキリトスから低い禍々しい悲鳴のようなものが上がった。
「「?!」」
二人して馬と日本語(省略)の方を見ると、妙に艶かしい人が馬の上に乗っていた。いや乗っているという表現は違う。馬の上に立っていたのだ。
「は?」
私が目を点にしている間に、ナッツォは血相を変えて馬の許に飛んでいった。乗っていた人物はナッツォを馬鹿にしたように、近付いた瞬間飛び上がって馬の上から消えた。消えたと思っていたら、私の目の前に重力丸無視で、少し浮いた状況で立っていた。
「やぁ、どうも」
「ど、どうも…って日本語?!」
「想像と違うなぁ。少し、幼い」
「それは聞き捨てなりませんな」
「そう?」
声を聞くと、艶かしい人は男性だとわかった。いやぁ、フェロモンというかなんかこう腰に来る様な顔と声と雰囲気と匂いといいますか…変な気分になりそうだ。
「俺、神子なんだ」
「へぇ…巫女さんなんですか」
ん?ということは女性なのか?
「だから、言葉が通じると思ってくれればいいよ」
「へぇ…」
そう言えば、ナッツォはどうしたんだろう?と彼の背後を覗いてみたら、後ろは馬小屋ではなかった。
「は?」
バッと、改めて辺りを見回してみると、白い神殿のようなところに私は立っていた。
「魔法?!テレポート?!」
「この国にある魔術と、俺が使える力は違う。俺の力は神子にしか使えない」
「巫女さんって凄いんですね…」
日本の巫女さんは、もう邪な目線でしか見れませんよね。コスプレ的な意味で。
「君の名前は?」
「え?知らずに連れてきたんですか?」
「クーラドヴォゲリアのお目付きだったら見たいものでしょう?」
「クーさんが関係してくるもんなんですか」
「クーさんね…じゃあ、俺のことはナチさんって呼んで」
「ナチ、さんですか」
「ナチア・トゥーマ・ルイアナ。好きに呼んで」
「…ぅ、あ、えっと…ナチさんで」
話しているうちに、私はまた勝手に移動をしていた。白い神殿だったはずなのに、今度は白いけれど少し薄暗い部屋にいた。
「なぁに」
無邪気に首を傾げる。しかし、その笑みに不気味さを感じる。
「ここ、どこ…ですか…?」
一歩一歩微笑みながら近付いて来るナチさんに対して、私は一歩一歩後ろに下がっていく。
「どうして逃げるの?」
「ナチさんの色気で変な気が起こりそうだからです」
ははっ、と引き攣った笑顔を見せるも、ナチさんは意に介した様子もない。
「変な気、起こしてもいいよ?」
「それは困りますよ」
「なんで?」
ぐん、と一気に距離を詰めた彼は、私の肩を掴んで体重をかけてきた。私と共に彼は後ろに倒れこんだ。
「ぶえ!」
「色気ないなぁ」
「ナチさんが、ありすぎなんだと…」
白い絹のようなベットの上に私は倒れていた。…ここは彼の寝室か?
「寝室、ですか」
「そうだね。俺の寝室」
と言いながら、彼は魔法のように私の服をするすると脱がしていく。
「脱がす必要がどこに…?」
わかっていて聞いてしまう。
なんでだろ。ヤバイとわかってるのに、彼の目か雰囲気か色気のせいなのか、身動きが出来ない。
「もしかして生娘?」
「違いますが…」
「じゃあ、わかるでしょ」
破らずに綺麗に紐解いた服からは、晒しで巻いた胸が現れた。この世界に来てから、ブラジャーはつけていない。他の女性がそういうものをつけていなかったからだ。
「こうやってさ…」
きつく巻かれた晒しを解き、現れた始めた肌に彼は指を這わせた。
「キモチイ事、することぐらい」
彼は私の胸を手におさめた。