ホラーや怪談は得意ですか?
ホラーや怪談は得意ですか?
2026/8月 2週目のニコタお題目
当たり前の事を訊かれて、どうしようか当惑する。インタビュアーの質問に何と答えるのが正解なのか、私にはわからない。
本当は、好きな訳では無い。ホラーも怪談も正直苦手だ。
でも。
「碓杯先生。今回も凍り付くような素晴らしい心霊作品を有難うございます。」
言われる度、困惑する。ただ単に、座敷童の男の子と泊まりに来たおばあさんの日常コメディを書いたつもりで…
「碓杯っ。今度のはラブコメだって言ってたじゃないかっ!!」
挿絵描く身にもなって見ろ、と挿絵担当の相方が文句を言う。
「お前は"うすつき"じゃなくて"うそつき"だろっ」
嫌味たらたら、丹誠込めて丁寧に描写したシーンを絵に起こしてくれるが。相方本来のほのぼのとした絵で描いてくれればいいのに。何故か私の挿絵は全部、背筋が凍る恐ろしいもので返される。
違うよーっ、そうじゃないよーっ、もっと相方好みのほのぼのとした絵で描いてくれればいいんだよー?
そんな私の心の声を拾ったのか、ギッと睨みつけて言った。
「ここの何処にそんなほのぼのとした描写があるってぇんだ!? 俺はてめえの書いたとおりに描いてるだけだぞっ!!」
しくしくしく。何がどうしてそうなっちゃうのか、私にはわからない。担当の編集者に聞こうとしても、一周以上回ってお互いの話がかみ合わない。
だからいっつも、そんな時は私が聞くのを諦める。
そしてこの取材の話。時折私の右肩の方を見ながら、向こうは問うてくる。
「何か、書くコツなどはございますか?」
無い。無いですよー。むしろなんで"ホラー"って言われるのか、私が聞きたいです。
あはははは、と笑うだけ笑って私は適当に受け流した。
取材も終わって、私はそっと右肩の手に触れた。ねぎらう様な温かさが身に沁みる。
『ごめんね。』と彼女は言った。首を振って私は、気にしてない、って答えた。
ニッチな商品としては有名な「人手型電気湯たんぽ・癒しさん」
右肩の手を握り、凝り固まった首筋に"彼女の手"を押し当てる。
元々いつも孫娘さんの手の暖かさに癒されていた会社の社長さんが、一念発起して、皆にもその心温まる温かさを届けたい…と作った商品がコレ。今はすっかりお世話になっており、私はその社長さんと孫娘さんに感謝の意を届けたい。
「んー、と美味しいもの、食べに行くとしますか。」
気持ちを切り替え席を立つ。相方も誘って慰労会でもしよう。そう思ったら、今度は肩の手が落ちた。
「あっ、」
「あ。」
もう一人、声を上げた人物がいた。少し瘦せ気味の初老の紳士、といった所か。
彼は、手が合わさったままま私を見つめて、思い切って問いかけてくる。
「あなたも…ですか。」
「…はい。」
私は静かに頷いた。今この触れ合った三人の手が、奇跡のように誇らしく思える。きっと、こんな私を本当に理解してくれる人が、世の中には居るんだと。
私達は見つめ合ったまま、強く互いの手を握り合った。
滅多にいない「癒しさん」のユーザーに巡り合えるなんて、なんてラッキーなんだろう。相方には「んなもん使ってるやつなんざ、この世に居ねえー」と散々馬鹿にされてきたけど、ちゃんとこうしてここにいるじゃないか。
人の優しさってのはね、ちゃんと世の中に伝播するんだよって。言っても全然相方は理解してくれないんだから。ホント嫌になっちゃう。
「ところで。不躾な質問で恐縮ですが。もしや碓杯先生…ではございませんか。」
「は…い?」
「いつも先生の御作品に感銘を受けております。やはり先生もこのようなグッズでより現実的な表現を創造なされていたんですね。」
思わず私は涙が零れてしまった。今はそう、夕暮れ時。黄昏色の光が眩しく私の目に刺さる。
「小生、先生もこのホラーグッズを愛用なさっている事、必ずやファンの同志達に伝えておきますね。」
熱く滾る思いの丈をその手に受け止め、私は儚く笑っていた。
違うんだよー。私の心の叫びは、遠くで鳴いてるカラスの声のように虚しく響いて、空高くに消えていった。




