第二章 Your love has set us free⑤
第五話 喧嘩
ここに来て、ひと月が過ぎた。
魔力操作は、なんとなく掴めてきている。
意識すると、身体の奥から熱?が巡るのが分かる。
「明日から対人訓練を始める。詳細は現場で話す」
昨日ヒゲニーに言われた。
訓練服を整え、野外実践場へ向かう。
いい天気だな。
「名をラグ・グニル!」
ヒゲニーの声が響く。
「既に知る者もいるだろうが、オニだ!貴様ら訓練兵はこの者を“魔獣”と思って相手をしろ!」
ざわめきが走る。
やっぱオニは魔獣なのか。
先輩訓練兵たちの視線が刺さる。
「これは賭博闘技ではない。走って殴る以外の術を覚えろ」
そうは言うけど…な。
「……はい」
「第一班、前へ!」
「はっ!」
三人。
……一対一じゃないのかよ。
「始め!」
綺麗な号令だな。
ーー正面の男が一直線に突進してくる。
右の男がその背後に回る。左の男は斜めに走る。
左――手に何か。石か。
正面の男はエリア直前で腰を落とす。背後の男が右へずれる。
石、飛ぶ。
頭、いや首狙い。
ーーラグは少し腰を落とす。
正面の男の頭を左手で掴み、地を蹴る。
浮いた体を軸に、右足を振り抜く。
背後の男の頭部に直撃。
正面の男が体勢を起こし、右フック。
ラグは脚を開きぐっと頭を低くする。
右拳をボディへ叩き込む。
めり込む感触。
視界の端で石が過ぎる。
男が崩れる。
二投目の石。
空中で石を掴み、間髪も無く投げ返す。
鈍い音。
石の男が膝をついた。
第一班終了。
静まり返る訓練場。
ーーーほらな。
ヒゲニーは眉ひとつ動かさない。
その後も、二班、三班。
八班。
昼前には全て終わった。
受けに回れとは言われなかったけど。
……これで良かったのか?
ここの水は美味い。
周囲の視線は、さっきまでとは違っていた。
「明日もやるぞ」
ヒゲニーはそれだけ言う。
今日は自由だって。
身体がもどかしい。
筋トレでもするか。
「右棟」地下の訓練施設へ向かう。
階段を降りる。
この時間の訓練施設は静かだった。
「ラグ・グニル」
背後から声。
「サイラス…?」
立っている。
思わず階段を上ろうとするその瞬間。
「やろうぜ」
訓練用の剣を、まっすぐ突きつけられた。




