【外伝】サイラス・フェイ⑨【終】
第九話 光
ーーーディルとの会話の後。
「ソルフィア、少しいいか」
サイラスはソルフィアの部屋のドアをノックする。
いつもと変わらない返事を受け、部屋に入る。
夕暮れだというのに部屋の明かりは消され、薄暗い中に彼女は立っていた。
「…サイラス、おいで」
「いや今日はそんな気分じゃない。聞きたいことがある」
チッ!っと洩らすとソルフィアは明かりを灯した。
「バーサーカーの鎧のことだ。魔力が具現化され固定されてるって言ってたよな」
「あぁうん。普通は無理だけどね。頑張ってどうにかなるレベルじゃない」
「その、難易度はどうでもいいんだ。やりあってる最中、何度か鎧に刃が当たったんだが」
サイラスは訓練用の木剣を魔力で包む。
「この魔力の刃の部分では、亀裂が入った。その後実体の刃が当たるだろ。その刃は通らなかったんだ」
「あーミレイがそういう編み方したのかもね。編み方って表現が合ってるか分からないけど。魔力を遮断する鎧だと、あの子がラグ浮かせられなくなるからかね」
「つまりあの鎧を剥がすためには魔力の刃だけで斬らないといけない」
「うん。あんた出来るじゃん。一メートルくらいは伸ばせるでしょ」
「ああ。ただ固定はされない。剣を振れば遠心力で少し伸びたりもする」
「魔力ってそういうもんだから。で、何が言いたいの?」
「鎧、つまり魔力は絶つが、人体は斬らない。そういう刃を作りたい」
「無理。理論が破綻してる」
「協力してくれ」
「聞いてた?ダーリン」
その日から俺の特訓が始まった。
ーーー
一週間後
「イデア主任はどうだった?」
「やはり精神異常を起こす呪いは存在する。ただ、かなり古い魔法で、継承されているなら魔法陣によるものだろう、と。少なくともリブルムンドはその魔法陣を保有してはいないそうだ」
「じゃあ原因はやっぱり憶測の域を出ないな」
「ひとつ、収穫があった」
ディルの目が光を取り戻す。
「サイラス、ラグと戦った時に採取された鎧の破片がな、かなり特殊な反応を示しているらしい。つまり魔女城より、バーサーカーの出現場所予測の確立の方が早いかもしれない」
「なるほど」
ーーー
一年後
「出現場所が予測出来ても被害が増える一方…か」
「今のままじゃジリ貧だ」
「ジョージはどうだ?」
「あぁ。あいつを見て知ったよ。ラグがどれだけ異常だったかってな」
「そうか…」
ーーー
十年後
「アレキサンダラスが磁場コントロール技術を確立させた」
「それが何の役に立つんですか?」
「まさか…」
「そうだ、サイラス。予測技術と掛け合わせれば、ラグを強制召喚できるかもしれん!」
「えぇ!サイラスさんもあの刃もう少しですもんね!」
「刃?」
「あぁ実はな…」
ーーー
二十年後。
東部ミドガルより通信。
『搬入完了です。設備問題ありません!これより設営にかかります!』
「ああ。頼むよ。カロン少尉」
ディルはそっと通信機を切りポケットにしまう。
「さて、では私もミドガルに向かうよ。イデア。今日までのこと本当にありがとう」
「ミレイは私の部下でもあるのよ。それに魔女城の方はまだ分からない。せめてラグ君だけでも」
「ああ。ありがとう。イデアの力が無かったらとてもここまで成し得なかった」
「あなた、アレキサンダラスの外交を繋いだのはディル・レミントン。現場指揮から人員確保はサイラス・フェイ。そしてリブルムンドの魔女たち、兵士たち」
「そうだな…。よく、ほんとに…ここまで」
「見届けてらっしゃい。この子と待ってるわ」
「ああ、行ってくるよ」
ーー
「とうとうこの日が来たね」
装備を整え、剣を腰に据える。
「じゃあ行ってくる」
「サイラス?この日のために新しい理論まで構築してしまったあたしへの労いは?」
「あれのおかげで大出世したじゃないか」
陽の光はまだ暖かく、ひとつの家を照らす。
「どの口が言ってるんだか。そのタイミングで孕ませたくせに!」
「それは…まあ、今言うか?」
「で?労いの言葉は?」
「ああ。愛してるよ」
俺は今日、かつての仲間を斬りに行く。
サイラス外伝(完)




