【外伝】サイラス・フェイ⑥
第六話 恒例
ディル班での三件目の任務。
北区の町トグル。
四人はこの日も、到着初日に案件をほぼ完遂していた。
そして、遠征の度、サイラスとラグの「決闘」は恒例となっていた。
ディルは書き物をしながら、ミレイは呆れたように見守っている。
「またやってるよー。まさかクワンでのパンの取り合いがこんな結果になるなんて」
「確かにそれには俺も驚いている。サイラスが焼きたてのパンに目が無いなんてな」
「そうじゃなくてぇー」
サイラスは木剣を使うこと、ラグは訓練用のグローブを着用すること。
ディルにより課せられたルールを、二人は愚直に守っていた。
そして、この「決闘」はしばらくすると人集りを作る。
現役兵隊同士の「パフォーマンス」は、町の人々を活気付けていたのだ。
「また賭け事始まってる…」
「まぁいいんじゃないか。軍の訓練は変なとこで過保護だからな」
「早くトグルの燻製料理食べたーい」
「スリーツーワーン!!今度は剣の兄ちゃんの勝利だー!!」
「あぁなんて盛り上がりなの…ディル止めてきてよ…お腹すいたよ…」
「スリーカウントノックダウン制。ラグも顎やコメカミでちゃんと脳震盪起こすからな。面白いルール作るよ、まったく」
「前回は股間押さえて悶絶してたもんね。あー思い出した。見たくなかったー」
熱気は時に人の傷を癒やしもする。
ーーー
夜。
素振りを終えたサイラスは、月夜に広がる星々に釘付けになっていた。
あの日から、どれほど強くなれただろう。
俺は強くなっているのだろうか。
父さん、今なら一本くらい、取れるかもしれないよ。
「何のために剣を取る」
そんなことを考えた時期もあった。
軍人なのにな。
でもそうだな。
父さん、母さん。
俺は仲間のために、と。
今はそう、胸張って言えるよ。
見守っててくれ。
月は何も言わず、ただその瞳を照らしていた。
ーーー
そしてこの日から一年半後。
二度のブルーシア国境戦、アレキサンダラス国境付近魔女城遭遇戦を経て、
この繰り返した「決闘」が、世界を動かす「理由」となる。




