【外伝】サイラス・フェイ③
第三話 あの日
「ラグ・グニル。来てるのか」
サイラスは、ミドガルの混戦の最中に垣間見た、ラグの動きを何度も思い返していた。
ーーーあれが、オニ、か。
サイラスの回復は早かった。
リハビリに進むための最後の治癒を、ステラから受けていた。
比較的魔力耐性の強い体質は、医療班魔導兵による治療を捗らせる。
通常なら全治一ヶ月の負傷を、三週間目にはリハビリとして軽微な運動が認められていた。
あの日から一ヶ月。
身体はすっかり動くようになり、同時にサイラスの野心あるいは好奇心は、抑えられなくなっていた。
「ステラ、頼みがある」
「いやです」
「ちょっと訓練してくる。もしかすると怪我をするかもしれない」
「あーあーあー!聞こえません!」
「そうだ。無かったことにして欲しいんだ。俺は今日もリハビリをしてる」
「はーいはい!経過良好なので私は他の患者にあたっていて気づきませんでしたー!」
「すまんな。借りは返す」
ーーー
その日の午後。訓練棟にて。
「ラグ・グニル。やろうぜ」
ーーー
ラグ・グニルにけしかけた「決闘」は、魔導兵ソルフィア・ヘリオス、エルダ・アトラ、ミレイ・ブラウの三名によって中断を余儀なくされる。
「チクられた」末に罰を与えられたサイラスは三日間、病室に「監禁」されていた。
「やぁやぁ、サイラス君。反省してるー?」
監禁二日目、ソルフィアが病室を訪ねている。
「ああ。おかげで助かったよ。エルダか?」
「そう、初めに気づいたのはエル。あたしら戦場帰りでアンテナビンビンだったからさ。しかしどの口が言ってるんだか。あんた、せっかくディルに指名もらったのに、また軍備の毎日に戻りたいの?」
サイラスは視線を外し、沈黙で返す。
「一匹狼もいいけどさ、そんなんじゃ魔獣狩りだってさせてもらえないの、分かってるでしょうが」
「分かったから。構うな」
「はぁー!もうコイツは!あたしの鞭でお尻叩いてやろうか!」
「とうとう、灼熱は鞭にまでなったか…」
「あ、見たいー?この前のは薄ーい熱線出しただけだからね!あたしも腕あげてるよ!」
「いいから。説教ならもう聞いただろ」
ソルフィアはムッとし、サイラスの頭を鷲掴みにする。
「…可愛い弟分が道を外さないか、姉ちゃん心配してんだよ」
低く告げると、振り返らずに病室から出ていく。
ーーー四年前。
サイラスが訓練生の頃。
同期と馴染めず、訓練は怪我人を続出させ、いわゆる問題児扱いのサイラス。
毎日、夕食後もひとり、訓練棟の影で、日課の素振りは欠かさなかった。
「あんたか。調子乗ってる訓練生は」
「女?魔女か」
サイラスと、ソルフィアとの出会いは、今にも雨が降りそうな月の無い夜。
「その言い方、あたしあんまり好きじゃないんだけどなー!」
黙ってサイラスは素振りを続ける。
「あのさ、同期と仲良くしろとは言わないけど、上手くやんないとだめだよ」
「なんなんだよ、あんたは」
「心配してるから言ってるの!」
「だから、なんでだよ」
「見てらんないんだよ。いつもいつもひとりで!」
木剣が、止まる。
「構うなよ」
ポツ、ポツ、と雨粒が木剣に落ちては垂れていく。
「決めた!あたしが一人前の魔導兵になったら護衛はあんただから!あたし強いから!あんたも強くなっておきなさい!」
そう宣言して、彼女は走り去った。
「どうしたんだ、あの魔女…」
「おい!サイラス!」
息を切らしてソルフィアが戻ってきていた。
唖然とするサイラス。
雨を掴むように頭上に掲げる掌。
ボウッと一塊の炎を放つ。
棟の影に染まるその場を、灯すように照らした。
「あたし強いからな!」
ニヤっと笑い彼女は再び走り去る。
ーーー
病室の壁を挟む二人は、
同じ思い出に、少し、浸る。




