【外伝】サイラス・フェイ
第一話 サイラス・フェイ
「ご飯出来たよー」
母は魔女だった。
魔女は出産を経ると魔女としての能力を著しく損なう。
名のある魔女だったらしいが、俺にはただの母親だった。
「飯だ!サイラス。今日はここまでだな!」
父は元軍人だった。
俺が幼い頃に戦争で片脚を失い、物心付いた時から剣の師は父親だった。
「うん。今日も一本も取れなかった…」
十五歳になっても俺は、父にはまるで歯が立たない。
父と俺は家の裏にある小さな庭から勝手口を通り家に入る。
「うわ、またこんなに傷作って!あなた!いい加減にしなさい!」
くたびれていく木剣の傷だけが増え、自分の成長の無さに苛立ちを感じ始めていた。
「マリー、それがさ、もう手加減出来ないんだって」
「だったらあなたがやられればいいじゃない!」
…ごもっともだ。
「剣士たる者、手は抜けん!」
「はいはい。剣客さんのお二人さん、手を洗ってらっしゃい」
いつもと変わらない食卓。
そう。変われない技術。
「そうだ、マリー。明日サイラスの魔力見てやってくれんか?」
「どういうこと?来年から軍に入るんでしょ。ちゃんとした人から習った方がいいと思うけど」
「父さん、俺、何かおかしいのか?」
「魔力の基礎自体はずいぶん前に教えてるんだが、最近循環具合がよく分からんことになっててな」
「どういうこと?」
「え、前っていつから?あなたの魔力操作めちゃくちゃじゃない…」
「五年くらい前か?」
「七歳の時だから、八年前だよ」
「知らなかった…ていうか気付かなかった。私ももうだめね」
ーーー翌日。
昨日と変わらない裏。
洗濯物を干し終わった母が合流する
「サイラス…。あなた…」
「な?どうなってるんだ?」
「魔力を練って循環させる。出来てないのかな…?」
「んー…。簡単に言うとね。サイラスは魔女みたいな魔力操作が出来てる」
「「??」」
「男の人には分からないわよね。まいったなー。どうしよう」
「サ、サイラスは女の子なのか…?」
「そんなわけないでしょ!」
「いい、サイラス。男の人は魔力を作って体内に循環させるでしょ。女の人、ううん、魔女は循環を超えて身体の外に放出できるの。作れる魔力の量も密度も全然違う」
「うん。それで?俺はいっぱい作れてるの?」
「量は、そうね。男の人の平均より少し多いくらいだと思う。分かりやすく言うと、魔女の頃のお母さんが百とすると、お父さんは十、サイラスは二十って感じかな」
「え…俺そんなに無かったのか…」
父がうな垂れている。
少し沈黙が続いた。
母を口元を片手で覆いしばらく考えて答えた。
「あなた。もうサイラスもいい年なんだし。話しておくべきじゃないかしら?」
「マリー、その言葉を待っていたよ」
父はなんだか嬉しそうだった。
「サイラス。父さんはな、少しオニの力があるんだ。でも上手く使えなくてな。まあぶっちゃけ魔力操作が下手なのはオニの力が中途半端に邪魔してるからなんだよ」
「魔力とオニの力は別なの?オニは怪我しないんじゃないの?」
「んー、ちゃんとオニの力が発現してたらそうなんだけど、父さんには色々中途半端でなー。オニらしいことは何も無いんだよ」
「じゃあ俺にもオニの力があるのか!?」
「サイラスも普通に怪我はするでしょ?でもその影響で、魔力の巡り方が独特なのかもしれないわね」
……。
「じゃあどうしたらいいんだよ…」
「どうしたらいいんだ?マリー」
「まったく…。あなたたちの武器は何?」
「「剣!」」
「剣の弱点は?」
「「間合い」」
「…もう。二人して…」
母が俺の木剣を手に取った。
「見てて」
淡い光が、刀身を包んでいく。
「よっ!!」
光る木剣は地面に柄まで深く突き刺さってしまった。
「ふーっ!これくらいはまだ出来たか。見てた?つまり刃の補強と保護よ」
……。
「「すげぇぇ!!」」
「母さん!俺にも出来るのか!これ!!」
「ふふふ。出来るはず。だってお父さんとお母さんの子だもん」
「マリー!俺にも教えてくれ!!」
「あなたは無理」
優しくて、強い両親。
年が明ければ、俺は入隊する予定だった。
ーーー魔獣さえ来なければ。




