【番外編】窓の向こうの君へ
第一話 才能
「きっと、私に魔法の才能はない」
研究室で、また弱音を洩らしてしまう。
周りを見渡す。
良かった、まだ誰も来てない。
ーーー「おはよう。ナギ。今日も早いな」
先生はいつも急にドアを開けるからびっくりする。
「おはようございます。アースラ先生」
「どうだい?陣の同時成立は」
「一つの魔法陣でしたら、問題無いのですが、先生みたく二つも、三つもとなると…」
綺麗なブロンドの髪をかきあげながら、先生が近づいてくる。
「お前は不器用かもしれないけど、魔法陣への理解は深い。私はお前のやり方、嫌いじゃないよ」
アースラ先生は天才だ。
そんな人が理解を示してくれる。
私なんかに。
「おはようございまーす!」
みんなが研究室に入ってくる。
先生と二人の時間だけが、もっと欲しい。
「揃ったね、お前ら。今日も昨日と変わらず、魔法陣の同時成立の練習だ。ただその前に、魔法陣同時成立の形式を理解してるか確認したい。だからここなのさ」
研究室が少し騒つく。
「昨日も見てたけど、A型とA型を同時成立させようとするやつがまだいる。誰とは言わないけどさ」
「でも先生。攻撃になるA型が二つ同時成立できれば、強くないですか?」
ジーナだ。
「それは、応用の範囲だ。今は基礎形式をスムーズに行えるようになること」
「先生は出来ますか?」
エルサが挟む。
「おや。勇敢だね。雷と熱線と氷結、同時に味わってみるかい?」
「…すみません」
「同型魔法陣の同時成立も、いずれお前たちも経験するから安心しな。今はA型とB型。苦手だとしてもこの二つの同時成立を修めなさい。それぞれ異なる魔力の流入式での成立。これを身体で覚えるんだ」
ーーー私はこの日も、やっぱり上手くいかなかった。
「ナギって毎日図書館行ってるの?」
訓練が終わると、珍しくジーナが近寄ってきた。
「うん。魔法の本、たくさんあるから」
「それさ、前から気になってたんだけど。何か意味あるの?」
「え、でも、魔法のことはもっと知りたいなって…」
「このブルーシアじゃさ、先代の魔女たちが残してくれた魔法陣がたくさんあるわけじゃん。その魔法陣に魔力流したらいいだけなんだよ?趣味もいいけどさ、魔法陣の型一つでも多く修める方が先じゃない?私おかしいこと言ってる?」
「うん。ごめん…」
「あんたが不器用だっていいの。体感は人それぞれだし。でも同時成立もまだまだじゃん。ていうか同時展開ですら微妙じゃん。努力する方向違うくないかなって」
「ジーナその辺にしときなって」
アンが割って入ってくれた。
「ナギもさ、才能無いっていつかぼやいてたよね。でもまだそんな段階じゃないと思うんだ。数こなせば出来るよ。ジーナは確かに器用だけど。分かるよね?」
反論の余地もない。
「うん。ごめん。がんばる」
「アンもう行こー」
ジーナとアンが出ていく。
今日は図書館はやめておこう。
同時成立。
がんばらないと。
「みんなよくやるよ」
エルサが吐き捨てるように呟くのが聞こえた。
ーーー夜。
くたくたになった私は、お風呂でも流入式のことを考えていた。
「同時に展開させて維持までは出来るようになった。でも違う流入を同時にするのはなー」
「お湯の水面にも展開できるのかな」
頭にこびり付かせた魔法陣を眼前で編むイメージ。
集中。
肌に触れているお湯に、皮膚感覚を委ねていく。
この小さな浴室ごと全てが、わたしそのもの。
揺れる水面に、揺れる魔法陣が展開できた。
淡い光が湯気に滲み、揺れに合わせて、煌めく。
「綺麗…」
魔力を魔法陣に合わせて流せば、その式の結果が出力される。
改めて見ると、本当に不思議。
過去の魔女たちは、一体どれほどの時間をかけてこれを作ったのだろう。
「炎や雷は、どこからやって来るんだろう」
「この魔法陣の向こう側って、あるのかな」
「あれ?これって……」




