第一章 I will ring a bell until you feel me by your side④
第四話 「傷」
町の外壁前には、乱れる群衆が滞留していた。
(どうした!?なぜ出ない!)
駆け寄ると、門扉に巨大な瓦礫が突き刺さり、開閉機構を完全に殺していた。
男たちが次々と扉に肩をぶつけている。
分厚い門扉を叩く鈍い音。
子ども、女性の悲鳴。
叫び声。
押し合う群衆。
背後から着実に近づく唸り声。
ーー時間はない。
「退いてください!開けます!」
ディルは強引に人波を割り、扉の前へ。
深く息を吸う。
魔力を全身へ巡らせる。
筋肉が軋む。
分厚い木扉が、みしり、と悲鳴を上げる。
「……っ!」
押し、
砕ける。
蝶番ごと、扉が外へ剥き出す。
「外へ!」
一層激しくなる叫び声を連れ、雪崩のように人々が溢れ出していく。
町外に魔獣がいないことを一瞬で確認し、ディルは踵を返した。
「ごめん!いける!少し時間ちょうだい!」
群衆の中からミレイが戻ってくる。
その目は、さっきまでとは違った。
ーー壁内へ逆走するディル。
三体の魔獣が迫る。
拳銃を抜く。
二発。
牽制。
距離を詰める。
振り下ろされる腕に滑り込み、開いた口腔へ手榴弾をねじ込む。
「――離れろ」
蹴り飛ばす。
爆裂。
頭部が消し飛ぶ。
二体目。
三体目。
まだ来るーー
「ディル!!」
背後から声。
ミレイが、門を塞いでいたあの巨大な瓦礫を宙に浮かせていた。
コクン、と小さく頷く。
刹那、振り抜かれる巨大な瓦礫兵器。
門前に群がっていた魔獣を、まとめて肉片へと変える。
鈍い破砕音。
門前に静寂がひとつ置かれる。
ディルはリュックを降ろし乱暴に通信機を取り出す。
「対魔軍第八部隊所属ディル・レミントン。東部ミドガル上空に魔女城出現。被害甚大。至急応援を――」
空を見上げる。
魔女城は、消えていた。
『すでに向かっている。それまで応戦を』
冷静な返答。
通信が切れる。
ミレイは再び瓦礫を浮遊させ近接する魔獣を一体一体叩き潰す。
ディルは再び、町へと走り出す。
サイラス、そしてラグを探すが、町民の救助がそれに優先された。
やがて手榴弾も拳銃も弾を尽き、渾身の力で魔獣を突き放し、町を走り続けた。
ーーー
対魔軍到着は通信から二十七分後。
到着から十五分で掃討完了。
圧倒的だった。
「災難だったな。だがよく持たせた」
対魔軍第二部隊長、サイファー・コルト。
東門の外に集まった軍の車両と兵士が行き交う中、ディルは敬礼する。
言葉は出ない。
麦色の髪は砂と泥と血が混じっていた。
ーーー
ミレイがサイラスの肩を取りディルに合流した。
服が原型も無く破れ、至るところから出血を見せる。
片腕は折れているのか、力無くぶら下がっていた。
かろうじで呼吸を続けるサイラスは、そのまま救護班に預けられた。
「サイラス…」
自身の不甲斐なさが、焼き付ける鉛のようにディルの胸を圧迫する。
そして、気づく。
「あの……ラグ君が、見つからないの」
ディルの思考が止まる。
町の鐘が響く。
再び不吉を報せるかのように重く、低く。
指先が冷たくなり、震え出す。
予感と想像は、
最短距離で最悪へと進む。
判断ミスと力不足の両方が、ディルの胸中を締め上げる。
「おーい」
手を振りながら赤毛の男が駆けてくる。
ラグ・グニル。
無事だ。
大きな息を漏らしながらミレイはしぼむように、膝を折る。
…いや、無事?
上半身は裸、下も服は破れている。
血も付着している。
「いやー、とんでもなかったな!」
あっけらかんとしている。
拳に、身体に、傷はない。
腫れてもいない。
素手で、殴って。
あれだけと戦って。
「……これが」
ディルの声は、小さくかすれていた。
「オニ」
第一章 完




