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第一章 I will ring a bell until you feel me by your side③

第三話 「遭遇」

朝日を浴びる、傾いた大時計台の下。


ディルは腕時計と時計台を交互に見合わす。

朝の町は「健全な」活気に満ちている。

石畳を踏む足音、焼けた小麦の匂い。

広場に面した商店には、昨日と変わらない今日という日を疑わない人々が行き来していた。

サイラスは、広場を行き交う人々を検分するように、満遍なく気を配っている。


「おはよー……」

欠伸混じりの眠たげな声とともに、ミレイが現れる。


「もうすぐ時間だ。シャキッとしてくれ」

ディルが苦笑しながら彼女の頭にフードを被せる。


「あの子、あの靴で来るのかな」

「さあな。まあ軍に着いたら支給されるから」

フードの上からミレイの頭を軽く押さえる。


「今更だけど、サイラス。間違いないな?」

「ああ。相当匂ったから大丈夫だ」


「……ねえ」


低くミレイが洩らす。


「どうした」


「なんか、ピリピリしない?」


サイラスが眉をひそめる。


「静電気か?」


「違う。そうじゃなくて。空気が……なにこれ、魔力?」


ミレイは無意識にこめかみに触れる。


「魔力……?」


ディルの表情が変わる。


次の瞬間、

鼓膜の奥を圧迫するような、不快な圧がかかった。

まるで空気自体が、町全体を地面へと押し下げたような沈下感。


「おーい!」


異様な気配とは裏腹な明るい声。

ラグ・グニルが小走りでやって来る。


ディルは片手を上げて応じるが、視線は定まらない。

サイラスは半歩、足を開く。


「今日からよろしくお願いします。ラグ・グニル君」

ミレイが無理に笑う。

「あたしの、というかみんなの名前、覚えてる?」

「あー……ディルと……」

言葉に詰まる。


その瞬間。


「――っ!」

ミレイが顔をしかめ、こめかみを強く押さえる。


ーーーとぷん。


空気が、落ちた。


町が影に染まる。


静かに。


音もなく。


「なんだ!」

戸惑いと困惑の声が町から上がる。


ディルが空を見上げる。


そこには、町を覆う黒い城郭が鎮座していた。


「まさか……魔女城」


地を這うような低い声が漏れる。


ーーー。


時計台が出す、弔鐘のような重低音が、遅れて鳴り始めた。


「天災の…魔女だ」


ーーー


ーーラグは勿論、三人ですら、魔女城遭遇は初めての経験であった。

既に見上げているディルの一言で、サイラス、ラグ、そしてこめかみを抑えたミレイの視線が、

順に空に向けられた頃、いくつもの黒い物体が落下し始めていた。


それは次々と町に「着弾」し、石畳を砕く。

地が響き、建物から瓦礫がこぼれ落ち、悲鳴が沸く。

土煙から黒い何かは、ヌッと立ち上がる。


個体差は二メートルから四メートル程度。

四足歩行、二足歩行、二本の腕、四本の腕。

およそ獣とも人とも違う歪な頭部を回すように揺らし、奇声のような唸りを、あちこちで上げる。


「魔獣…」

サイラスが奥歯で噛み潰しながら剣を抜く。

「おお」

まるで危機感の無い声がラグから出る。


「魔獣は人や家畜を見つけると破壊し、食う。骨も臓腑も関係なく、ただ貪る」

そう、言い残したサイラスが弾かれたように飛び出した。


頭上の城郭が何者であろうと、ディルからの指示を待つ余裕はない。

切っ先を上げ、眼前の魔獣を両断せんと銀の軌跡を描く。


一方、ディルはすでにこの町の人全てを救うことは叶わないと、結論を出していた。


(応援を…!それまでどうする!魔女の力に頼るか?いや無理だ!手持ちの武器は拳銃が二丁に手榴弾六つ。足りない。だが!避難させなければ。クソッ!)


思考が加速する中、サイラスは二体目の首に刃を入れる。

それを視界に捉えたディルは即座に固まるミレイの手を取り、人々に避難方向を叫ぶ。

「東門へー!」

城の影の及ばない最短距離の方向を、ディルはすでに把握出来ていた。


(あいつは!?ラグ・グニルは?)


ディルの思考はようやくラグを拾う。

ラグは広場の中心で、一歩もその場を動いてはいなかった。


「ははーん。頭か」

相変わらずのラグの声が聞こえた瞬間、


彼はディルの視界から消えた。


ミレイの手を引き走る。

魔獣の動向を目で確認する。

広場で群がる魔獣に囲まれるサイラスと、少し離れた所で、魔獣に飛びかかるラグを見た。

早鐘を打つ鼓動を抱え、ディルは人々へ叫び、走り続ける。



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