第四章 Witches gather and dance④
第四話 せかい
三日が過ぎた。
ラグ君の容態は劇的に回復している。
食事を摂っては泥のように寝る、を繰り返していた。
ぼーっとしてるようで会話はあまり出来ていない。
「ネシカさん」
湖に面したバルコニーで、山に差し掛かる太陽を眺めながらネシカさんは煙草を燻らせている。
「今日の夕飯はなんだい?」
わたしはすっかり食事係になっていた。
これだけしてもらってるから、仕方ないけど。
「準備は出来てます。少しお話いいですか?」
ニコッと笑う。
「天災の魔女って何なんですか?」
ネシカさんはふうーっと煙を吐く。
「…あれは困った子さね。でも責任はこの世界にあるよ。だから甘んじて受けるべきとも思うさね」
また含み過ぎてよくわからない。
「浮いてるじゃないですか。魔女城。魔獣も無限に出てくる。わたしやネシカさんと同じ力なんじゃないですか?」
「……そうだね。そうかもしれないね」
「ネシカさんでも、倒せないんですか?」
「そりゃ魔獣が森に入れば追い出すさね。でもあの城を落とすとなると…あんまり考えたくはないね」
「そうですか…」
「お前軍隊は長いのかい?」
「わたしは孤児ですから。小さい頃から軍で育ちました」
ネシカさんは少し間をあける。
「伝えておくかな。ミレイ。ミレイ・ブラウ。お前は天才だよ。保証しよう。わたしが世界を自由に行き来できたのはお前の歳よりずっと後だ」
ネシカさんは振り返らず続ける。
「魔力は本来水のようなものだ。物を浮かせるためには大量の魔力を流し続けないといけない。でもお前は無意識のうちに狭間を経由して物を浮かせてる。教えて出来ることでもないが、知らずに出来ることでもない、筈なんだけれどね」
「だからね。ミレイ・ブラウ。この先お前がその力をどう使い、世界にどこまで干渉し影響を与えるか。わたしにも分からない。オニの子を大事に思っているお前の気持ちはよく分かった。願わくば二人とも、力を世界に向けることなく穏やかに、暮らして欲しいと、そう今は祈っているよ」
……
……。
「ふ、ふふふたりで暮らす!??なな、なに言ってるんですか、ネシカさん!」
ふふふと笑い、煙草を灰皿に置く。
「誰も二人で暮らせ、なんて言ってないだろう?」
そういって立ち上がり、わたしの頭に手を置く。
「順調そうだね。そうだよ。繰り返すんだ。何事も。何度でも。出来るまで」
ネシカさんの手は、いつも優しく温かい。
「さて、あの坊主、そろそろ叩き起こそうか。明日には出ておいき」
そんな急な、と言いかけてわたしたちはまだ作戦中だと思い出した。
ーーー翌日。
むにゃむにゃしているラグ君を連れてネシカさんの家を出る。
「あいがとうございましたー」
ラグ君分かってるのかな…。
「また、来てもいいですか?」
「ああ。この湖一帯は現世と少しズラしてあるからね。お前なら自力で見つけられるだろう」
最後にぎゅうっとネシカさんに抱きつき、わたしたちは歩きだす。
ーーー振り返ると畦道になっていた。
湖はもうどこにも無い。
本当に夢みたいだった。
元いた世界に帰ってきたみたい。
ラグ君の手を握ってみる。
魔力は正常。
オニの魔力も微かに感じる。
なにより
……温かい。
「夢じゃなかったってことだよね」




