第四章 Witches gather and dance③
第三話 導く手
「さて、いたずらをするでもないし。それが終わったら始めようかね」
食器を洗っているとテーブルで煙草を吹かしていたネシカさんが言った。
食事中の会話で彼女の名を知った。
ネシカ・バレンタイン。
名前以外は全てはぐらかされた。
ネシカさんの向かいに着く。
「よろしくお願いします!師匠!」
「ふふふ。師匠か。懐かしいね。でもお前にとっては少し違うかもね。ミレイ・ブラウ」
「教えてくれないんですか?」
「どうやって、はわたしとお前で違う。だから何ができるかだけ見せる。そこへ連れて行くだけ。言っただろう。教えるのは触り方だ。どう使うかは、お前次第」
そう言うとネシカさんは、ふうーと煙草の煙を吐いた。
煙が膨れ、止まる。
音も消えた。
「ここはさっきの空間と現世の狭間。どちらにも触れられる場所」
ネシカさんは固定された煙にポスポスと指で穴を開ける。
その手で輪を作り、スーっと空を滑らせる。
穴の跡に光の棒が生まれる。
光の棒をパシっと握ると、煙が動き始め霧散した。
「そんな…魔力の具現化…?」
「まぁ呼び方は好きにすればいいさ。さっきの空間で魔力は時間の影響を受けない。そして今こうして手に出来る。たいした密度もないから、もう消えるがね」
ネシカさんがそう言うと光の棒は散るように消えていった。
「もう一度」
そう言うと、また外の音が消える。
煙こそないけれど、あの「狭間」にいるのだろう。
今度は光の球を作り出した。
それを手にしたネシカさんはニヤリと笑う。
ーーー!!!!!
景色が消えた。
あの時の「部屋」にわたしとネシカさんはいた。
「ここではコレは消えない。密度に関わらず。思いのままさ」
そう言いながらわたしの頭上に玉を投げる。
玉を目で追って振り返ると、そこには山があった。
剣や斧、盾に弓そして槍。
様々な武器が山となって積み上がっていた。
「どうだい?わたしの力作さね」
言葉がでない。
これは現実?ウッとまた吐き気がする。
ーー「それもその内慣れるさ」
ネシカさんはテーブルに肘をついて煙草を吸う。
戻ってきた?
分からない。
わけが分からない。
「ごらんよ」
もう片方の手を空に伸ばす。
指先から手首が消えていく。
くいっと何かを引き抜く動作をしたかと思えば、その手にはガラスみたいに綺麗な短剣が握られていた。
「さっきの…」
なんて言っていいか分からない。
テーブルの端に置かれた果物を取り、ネシカさんは短剣で皮を剥き始める。
剥いた実のひと欠けを差し出し、わたしの口に押し付ける。
夢を見ているようだった。
「夢をみているみたいかい?」
ハッとする。
「さて。それじゃあ、行っておいで」
ーーー不思議と、不安ではなかった。
わたしは意識を「持ち上げる」。
亜空間。
狭間を抜けてしまった。
「上出来!」
振り返るとネシカさんがいた。
「ここはお前だけの空間。ほら、わたしの力作たちは見当たらないだろう?」
無い。
気配も。
「作ってみるかい?」
何かを持ち上げるつもりで魔力を使ってみる。
「わわわわ…!!」
歪な煙のような物体が、手からモクモクと溢れてくる。
クスクス。
「ここじゃ流動的な魔力は扱いづらい」
ネシカさんはそう言って笑っている。
「じゃあ作るのは狭間、保管はここってことですか?」
「お前次第さね。ただそういったもんだと見せたかったのさ」
この人は発言に含みを持たせすぎる。
もう一度意識を持ち上げ「狭間」を探る。
ーーリビングにいた。
音がしない。
狭間…かな?
向かいのネシカさんも止まっている。
ネシカさんに触れてみる。
手首を掴んでいるはずなのに「触れない」。
ここはそういう場所なんだと思った。
さっきと同じように魔力を使ってみる。
手のひらから「魔力」が滲みだし、切り離すと丸くまとまり浮遊している。
ナイフの形に整えてみる。
指先の動きとは別に、わたしのイメージに応えるように形状はどんどん変わっていく。
ナイフを掴み、意識を持ち上げる。
「おかえり」
ネシカさんはニコッと笑った。
わたしの手はナイフを握っていた。
いや、掴んでいた。




