第四章 Witches gather and dance②
第二話 亜空間
ここは…夢見てる?
クスクス。
笑い声が聞こえる。
さっきの女の人だ。
「やっぱり、ね」
「これ、なんですか?何も見えない」
「視えない、は少し違うね。そうだね。ここは魔力の世界。現世と少しズレた空間」
「分からないです。あの、ラグ君は!」
クスクス。
「お前はほんとに可愛い。そこにいるよ。”視える”だろう?」
この人は、何を言って…!
黒い蛇のようなモノが何かに絡みついている。
「ほどいてあげなよ。悪いけどわたしは触りたくもない」
例えばどうやって手を動かしているか、言葉で説明できないように。
わたしはこの空間でがむしゃらに、巻きつく蛇のような縄をほどいていた。
「そのままでお聞き。この空間に干渉出来るのは限られた魔女だけ。お前はその男を浮かせていたね。どう魔力を操作しているか説明がつくかい?」
「分かりません!これしか出来ないんです!」
ほどいても、ほどいてもキリがない。
それでも。
「お前は魔力と時間を切り離せるんだ。だからこの空間にも干渉出来る」
時間?
なんのこと?
「炎を生み、雷を呼び、空気を歪め、呪法を具現する。それでも魔力は時とともに流れていく。魔力とは現世を包む大きな命の流れ。境から滲みでたそれをたまたま享受出来たのがわたしたちさ。一説に過ぎないけれどね」
もう、何の話をしているのか分からない。
でももう少し。
もう少しで全部ほどける。
「お喋りがすぎたね。久しぶりの来客で嬉しくなってたんだ。許しておくれ」
ふふふと彼女は笑う。
本当に綺麗な声。
最後の一本が、ほどけた。
「お前ならもう慣れたんじゃないかい。ほれこっちだよ」
声に「方向」が出来ていた。
振り向くとあの人が立っている。
わたしの身体もある。
ラグ君も。
瞬間、目を疑った。
ラグ君の鼓動が、魔力の巡りが透けて、でもはっきりと視えていた。
ここも、広い部屋のように視えてきた。
「よしよしよし。いい子だね。真実とは体感するものさ」
彼女の視線に気付く。
「さあ。魔女よ。選択を与えよう。お前が触れられる世界を掴むか。混沌の現世に身を投げるか」
「え…わたしに…わたしは、強い魔女になれますか!?」
「強さかい?欲しいのは。強さとは何を指す?」
「もう、誰も、傷つかないように!仲間と、みんなとずっといられるように!戦争を…なんて…早く…終わらせたい」
「そのために殺すのか?命を奪う力がお前の強さか?」
「でも!その力が無いと守れない!」
……。
彼女から笑みが消えた。
「混沌の申し子よ。その先の未来が、お前の屍の上にあるとしたらどうする」
「力を持つということが、どういうことかは分かっています。わたしは軍人です!」
「そう。可愛い子。まずはその男をオニに戻そうか。そいつにはまだ時間が必要だ」
ーーー
一瞬吐き気がしたと思ったら、わたしは天井を見上げていた。
木の家。
綺麗な家。
窓からは湖が変わらず美しい。
風が水面を撫で、鳥が穏やかに鳴いている。
部屋のドアの向こうから美味しそうな匂いがした。
部屋を出ると階段があり、降りるとそこはリビングらしかった。
「スープがね。もう出来るよ。かけておくれ」
「あの」
「あの少年は寝てるよ。よく出来たじゃないか」
女の人は鍋を回しながら振り向かずに言った。
「落ち着かないね。お前の部屋の隣さね。見ておいで」
わたしの言葉を待たす、彼女は言う。
ラグ君の部屋に駆けつける。
透けた窓ガラスから光を受け、ベッドの上で穏やかに眠っている。
ーー魔力は、ゆっくり巡っていた。
リビングに戻るとスープがテーブルに置かれていた。
パンとスープと果物。
ここ数日レーションか未熟な果物しか口にしていなかったわたしのお腹が鳴る。
ふふふと着席を促される。
「あの、ありがとうございます!本当に…!!」
「ああ。そうだね。ほら食べよう」
優しい笑み。
席に着き、ポタージュのようなスープを啜る。
まるで命そのものが身体を巡るように。
美味しくて、
温かくて、
嬉しくて、
優しくて。
情けない。
視界が滲む。
手が震える。
滲んで、
ぼやけて、
何も視えなくなる。




