第四章 Witches gather and dance
第一話 魔女の森
ーーーもう太陽があんなに高い。
大丈夫。
方角は合ってる。
何度も来た森。
なのに、知らない畦道。
昨夜、弱音も泣き言も全部吐いた。
だから、もう進むだけ。
わたしは車から抜き取ったコンパスを握りしめ、歩き続ける。
夜までに反対側の麓へ。
なんとしても。
怖くない。
背中のラグ君の体温が、あたたかい。
少しだけズルいことをしてる気もする。
……ほんと、器用になったなあ。
でも。
もっと戦える使い方を覚えていたら。
あの爆炎の魔女みたいに。
そしたら。
ディルも。
サイラスも。
――違う。
あの二人は絶対大丈夫。
もう泣かない。
わたし。
……ディル、怒るかな。
サイラス、また大怪我してないかな。
……会いたいな。
「ゴホッ」
背中がわずかに揺れる。
「ラグ君。大丈夫?大丈夫だよ」
「……ミレイ。歩ける」
「起きたの?これね、浮かせてるの。だから平気」
少し安心したみたいに、また眠る。
ほんとにこの子は無茶をする。
いつも突っ込む。
でも…守ってくれる。
だから今は、わたしが守る。
このひとを。
風が頬を撫でた。
暖かい。
湖。
湖…?
……こんなの、あった?
水面がキラキラと虹色に反射している。
違う。
光じゃない。
魔力。
薄く、儚い粒子が水面を漂っている。
ラグ君をそっと地面に寝かせる。
水を掬い、傷口へ落とす。
弾かれない。
魔力を、拒絶しない。
染み込んでいく。
いけるかもしれない。
一か八か。
ラグ君を抱き上げ、水へ――!
「これこれ。やめておくれよ」
綺麗な声。
振り向くと、湖の中央に、女の人が立っていた。
銀色の長い髪。
水に触れているはずなのに。
浮いてる?
切れ長の目が、こちらを見ている。
息を忘れるほど、綺麗。
「そんなもの、入れないでおくれ」
「えっと…。す、すみません。でも……でも!治るかもしれなくて…!」
くすり、と笑う。
「いい子だね。そして愚かしい」
その視線が、ラグ君に落ちる。
「そんなものを負う必要もないだろうに」
そんなもの?
「大切かい?」
女は首を傾げる。
「その命が。その温もりが」
どうしてだろう。
涙が溢れる。
もう泣かないって、決めたのに。
「あの…おねがい…します。……たす…けて、ください」
声が震える。
手も、膝も。
「可愛い子」
「おやすみ」
視界が、暗く落ちた。




