第二章 Your love has set us free⑥
第六話 決闘
「え、いやさすがにまずいんじゃない?ヒゲ…カイル・ソウ少尉にも怒られるし。ほら軍規にもダメって書いてたような」
「あぁ気にするな。手は打ってある。こっちだ」
それ以上は喋らないサイラスに連れられ、さっきまでいた野外実践場まで戻ってきた。
「さっきの見てたの?」
「見てたよ。なあオニって腕斬り落とされたらどうなるんだ?再生でもすんのか?」
サイラスは木が並んでる端まで歩きはじめた。
その一本に向かい、剣を振り抜く。音もなく。
「なんてな。俺も特異体質でな。武器に魔力を這わせられるんだ」
振り向きながらそう言うと、サイラスの背後の木はズンと音を立て倒れた。
「なんてな」の割に表情は少しも笑っていない。
「這わせるだけでも刃は欠けないし折れない。そしてその気になればこんな木剣だろうと関係ない」
サイラスは構える。
ふと、この前のディルの言葉を思い出していた。
「より強く」。ここの訓練生は誰もがそう考えていることもあれから知った。
だからサイラスの気持ちが、分からない訳じゃない。
勝てば、止まるか。
ーーーラグはふうっと息を吐きサイラスを見つめ、身体は脱力を極める。
両者の間は四メートル。
奇しくも「あの闘技場」と同じ間合いに立っていた。
時が止まる。
風も無く、遠くで鳥が鳴いていた。
武器を相手にすることは決して初めてではない。
「あの闘技場」ではオッズ次第で武器使用が認められていたからだ。
それでもラグは仕掛けずにいた。
ーー(心臓の音が大きい)
初動はサイラス。
突進。
最低限の振りかぶりで、
左鎖骨からの袈裟。
ラグは狙いを読み、右のジャブでサイラスの顎を狙う。
サイラスはさらに踏み込み、動いたラグの胴へと一閃。
左足を蹴り上げ身体を丸め込み、宙へと回避しながら再び距離を取る。
「疾い」
互いに同じ印象を抱く。
二人の口角が同時に上がると、ラグが仕掛ける。
剣の持ち手にジャブを一閃。
表情が濁る。
捨ての振り下ろしから突きへ。
鳩尾を狙った突きにラグは対応出来ず、刃先ほど浅く、しかし強く受けてしまう。
魔力は刃を覆ってはいない。
ラグの表情を確認すると峯が向いたまま顎への一撃を繋ぐ。
頭が跳ね上がる。
同時に、ラグの左足がサイラスの視界を揺らす。
口から血を垂らす二人。
ラグの全身が脈打つ。
心臓が跳ねるように早鐘を打つ。
明らかに高揚するラグをサイラスは静かに見定めていた。
ーー熱い。
もっと。
もっとだ。
もっと熱く。
燃えるまで。
もっと。
高揚する様はもはや異変へと変貌する。
おそらく、いや確実に、ラグは身体の魔力を加速させている。
今までの脱力した「構え」では無く、全身で力み、震えている。
目を見開き、微かに唸り始める。
サイラスは魔力を刃先にまで及ばせる。
魔獣など比べ物にすらならない重圧。
かつてない危機を察知し、同時に高揚していた。
時が止まった。
二人は身体機能を最大限に発揮せんと突進する。
ラグは刃を迎えんと左手を突き出し、右手に魔力を集中させる。
サイラスは突きから左方への薙ぎ払いを目論み、左の手のひらを柄に当てる。
刃先と指先の距離は拳一つ分に迫るその時。
二人の身体はそこで止まった。
まるでゴム板にめり込む銃弾のように。
思考が追いつく前に、二人の視界が光で覆われる。
視界を焼く熱線。
熱い、熱い熱い。
顔が焼ける。
「はーーい。お疲れー。軍規違反ですよー。二人とも」
同時に、重圧。
巨大な何かに押し潰される。
地面に叩きつけられ、呼吸が奪われる。
視線だけを動かすと、二人の女性兵士。
その奥には、ミレイ・ブラウ。
一人は掌をこちらに向け、もう一人の周囲には光の帯が巡っていた。
「熱線出す前に止めたんだから感謝してね?」
「オニ、出力上げすぎ。何バグってんの?みっともない」
淡々とした声。
少し離れた位置から
ミレイ・ブラウが見ていた。
笑っていない。
ただ、じっと見ていた。




