表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポケットダンジョンもんすたあ☆プリズマ・スポラ  作者: 真青


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/1

マイセリウム・フラワーフェス

 朝露をきらめかせて太陽が昇り、いつもの日常が始まる。


 __おっと、今日は日常からちょっと外れた特別な日。

 年に二度のマイセリウム・フラワーフェスの開催日だ!



「ママー! 髪型これでいい? おかしくない? ワンピおっけー? バッグおっけー? おっけー! じゃ、行ってきまーす!」


 オレンジ色の髪に大きな瞳の少女は、キッチンで朝食の支度をする母親に、お出かけ着のコーデチェックをねだっていた。


 そして、母親の笑顔の肯定に大いに満足したようだ。


 小さめのお弁当ポーチをひょいっと指にかけると、ビュッと弾丸のように玄関へと駆けていった。


 そんな姉を、あきれ顔で見送るのは、しっかりと寝癖を立たせた黒目黒髪の男の子。

 木野光太(きのこうた)12歳、小学校6年生だ。


「いいなあ、(さと)姉ちゃん。俺も早く自分のダンジョン欲しいな」


 光太の姉、智は先月15歳になったばかり。

 今日のフラワーフェスを心待ちにしていた。


 現代日本での成人年齢は18歳。準成人は15歳。

 __そんな決まりが6年ほど前にできた。


 そして、準成人になると個人のダンジョン所持が許可される。


 マイセリウム・フラワーフェスの日、準成人全員に『スポラ・ジェンマ――胞子の宝珠――』という名のダンジョンの種が、国から無償で配られるのだ。


 スポラ・ジェンマ。


 それは、宝石のようにキラキラした六角形の種で、手のひらで温めたり一緒に寝たり、とにかく持ち主・オーナーの側に置くことで成長する。

 人間の持つ創造力、クリエイトパワーを吸収して育つといわれる不思議な植物の種だ。


 そして、クリエイトパワーを十分に吸収すると、桔梗のつぼみのように、ふっくらと膨らんで開花する。


 開いたその花『マイセリウム――菌糸体――』は、六枚の花弁の中央が、なんとダンジョンゲートになっている。


 そしてオーナーがゲートに触れると、瞬時にダンジョンに移動することができるのだ!


 __ダンジョン。


 それは、『秘密基地』なんてもんじゃない。

 自分だけのワールド。


 誰にも侵されない、自由な土地が、空間が、無償で手に入る。

 夢のようなお話。


 そのうえ、農作物、海産物、鉱物資源。

 ダンジョンからもたらされる豊かな恵みは人類を潤してきた。


 そんなダンジョンが発見されてから、まだたったの20年だ。


 ダンジョンには、いまだ未知の動植物、隠された宝物が眠ると言う。


 それを手に入れるチャンスは全世界、全人類に平等に開かれている。


 ワクワクとドキドキ、夢と冒険が詰まった新世界。

 それがマイセリウムダンジョンだ。


「はぁ~。早く大人になりたいよ」


「ふふ。そんなに急がないで。光太ちゃんは、ずうっとママのベィビーちゃんで、いていいのよ」


 ダイニングテーブルに肘をついて、ため息を吐く光太。

 母親は、そんな光太を優しく抱きしめた。


「ねぇママ、俺もフェス見に行ってもいい?」


「もちろん、いいわよ。朝食を残さず食べたら、いつものように自習と鍛錬。祭日だからって怠けちゃダメよ。それから、ホロをお散歩に連れてってね。そのあと、ママと一緒に会場に行きましょ」


 光太は、お皿の上に鎮座するプチトマトを嫌そうにフォークでつついた。



「行くぞ! ホロ」

 

 リードを引くと、愛犬ホロ(コーギー♂5歳)は、機嫌よくワフンと吠える。


「がんばった! えらいぞ俺。トマトとの戦いに勝利したッ」


 喉奥に残るトマトの青臭さ。

 はぁはぁと口を開け舌を出した光太は、愛犬ホロにそっくりだったりする。


 そんな、よく似た飼い主とわんこは、いつもの散歩コースから離れ、フラワーフェス会場『ジェンマ公園』のわき道を歩いていた。


 ジェンマ公園は、透明なドームに覆われたマイセリウムの研究施設。


 今日はフラワーフェスのために一般開放されていて、会場の内も外もカラフルなバルーンや出店でにぎわい、お祭りムードに盛り上がっている。


 施設の中央にあるのが、ジェンマの木と呼ばれる1本の大きな木。


 カラフルなスポラ・ジェンマをオーナメントのように吊るしたジェンマの木は、朝日を受けてキラキラ輝いてとてもきれいだ。


 今年15歳になった準成人の少年少女たち。

 彼らはジェンマの木の下で、ひとりづつ木の落とすスポラ・ジェンマを受け取る。


 自分だけのパーソナルダンジョンの種だ。


 この種は『スポラ・クロマ――色付き胞子――』と呼ばれる。

 赤、緑、青の3色が基本のカラーだ。


 まれに黒や透明のレア、混合色のスポラ・ジェンマを手にする子がいる。

 ひとつの会場で年に2、3個の出現率の低いレアカラー。


 レアは早いもの勝ち。

 という訳ではないけれど、この特別なジェンマの在庫? が、まだある早い順番になりたくて、みんな早朝から頑張って会場前に並んでいたりする。


 まあ、本当に気休め程度のジンクス。なのだけど。


 そんな訳で、9時開園のフェス会場の外周には、すでに大勢の少年少女の列ができていた。


 光太は、列の中に姉の姿を見つけた。


 明るいオレンジ色の三つ編みツインテール。

 ばっちりコーデの智は大勢のクラスメイトに囲まれ、きゃあきゃあと嬉しそうにはしゃいでいる。


 フェス会場の雰囲気と熱気が光太は大好きだ。

 期待に胸を膨らませる準成人たちの笑顔に釣られ、ついこちらもワクワクしてしまう。


 15歳まで、あと3年。

 小学生の光太には永遠のように感じる長い道のりだ。


「はぁ~早く大人になりたいな」


 そんな愚痴を口にしても、実のところ今日の光太の一番の目当ては屋台飯。

 トマトの残像を上書きしていく、香ばしいイカ焼きの香りに鼻をヒクつかせる。


「ワフン、ワフン」


 ホロが何かを見つけたようだ。

 気になる方向へリードを引っ張り、前足でちこちこと空気を掻いている。


 誰かの落とした手袋、飲み残しのペットボトル、酔っぱらい。

 ホロは住宅街の様々な獲物を見逃さない、超優秀な狩猟犬なのだ。 


「__まてっ! ホロ」


「この気配……かなりの大物だ。油断するな! ……リュウグウキングか。まさか、伝説のメタルゴー……」


 光太はノリノリで乗っかった。

 小6男子だもの。突然、妄想バトルを始めちゃうのは仕様だね。


 ジェンマ公園の外周、フェス会場の入口から離れた植え込みに向かって、ホロはワフンワフンと走ってゆく。


 冒険者気分の光太は、人通りの少なくなった裏門のそばで誰かとすれ違った気がした。


 けれど、振り返ると誰もいない。


「気のせいかな?」


 リードをピンと張って、早く早くと、ホロが急いている。


「平和を乱す、悪のモンスターども! 俺の拳で叩き潰してやる!」


 気を取り直して、妄想バトルワールド再起動だ。


 ホロは石積みの植栽の囲いに手をかけ、ぶんぶんとしっぽを振っている。

 鼻ズラを突っ込み、ワフンワフンと忙しないホロ。


 そこにあったものは、誰かが捨てただろう、薄汚れた手のひらサイズの小さなお人形だった。


「くっ。ついに村人に犠牲者が……この凶行、許すまじ。平和に暮らす善良な人々を……」


 拳を握り締め、巨悪への復讐を誓う光太は、__そこで違和感に気がついた。


「これって……え? まさかミセリィ?」


 『ミセリィ――ちいさな菌糸――』は、ダンジョンフィールドに住む、ナビモンスターだ。


 くったりした人形は確かに息をしていた。


 動画で何度も観たことがあるから間違いない。

 小さな菌糸帽子をかぶった精霊族。


 ミセリィがダンジョンの外に出ることなんて、めったにない。


 いや、マイセリウム研究所のドームの中以外で、ミセリィが地上に存在すること自体できないはずだ。


「まさか、研究所から逃げ出してきたの?」


 光太は植え込みのすぐそば、研究所の塀を覆う透明な結界に目をやった。


 ナビモンスターのミセリィは、白黒の執事服をイメージさせる清潔感のある容貌が特徴だ。

 それが、いまや煤けて全身まだらでボロ雑巾のよう。


 この小さな精霊にいったい何があったのか?


 そっと優しく手のひらに乗せると、ミセリィは小さな身体をふるふる震わせた。

 だいぶ弱っているけれど、まだ生きている。


「大丈夫? すぐにドームに戻してあげるよ」


 ふるふる震えるミセリィは、ゆっくりと瞼をあげて光太を見つめた。


「ボク……XXXだよ」


「もうXXX……そうなんだね。ボク……ずっと……」


 とぎれとぎれの言葉を紡ぐミセリィ。


「……捨てられたんだ。信じてたのに」


 つぶらな瞳から、大粒の涙がぽろぽろこぼれる。


 光太は胸の奥がズキンと痛くなった。


 ミセリィは動画でも大人気のアイドルモンスターだ。

 いったい誰が、こんなにも愛らしいミセリィを捨てたのだろう。

 

「ナビモンスターを捨てる人なんているはずないよ。何かの間違いだよ。ね、研究所に戻ろう! 君は、そこから来たんだろ?」


 弱弱しくふるふると首を振るミセリィ。


「お願い。……助けて」


 ミセリィのうるんだ瞳の見つめる先、植栽の茂みの奥で何かがぼんやりと光っていた。



読んでくれて、ありがとうございます!

応援の声は励みになります(n*´ω`*n)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ