9 母上と仲良くさせたい-2
翌朝、アメリアはひとりで中庭に出ていた。
俺を見つけるなり駆け寄ってきて、「お花、摘んでもいいですか?」と遠慮がちに尋ねてきた。
「もちろん、いいとも。自分の部屋に飾るのか? メイドに花瓶を用意させよう」
メイドがいくつかの花瓶を持ってくると、アメリアはその中から気に入ったものを選び、ミレナの花を丁寧に挿しはじめた。
「なかなか上手だな。綺麗にまとまってる」
「ありがとうございます! あの……亡くなった母と、よく庭の花を摘んで部屋に飾っていたんです。お屋敷のような立派な花じゃなくて、野の草花でしたけど」
「そうか……今度、俺と一緒にアメリアの母親のお墓参りに行こう。好きだった花を、たくさん持ってな」
アメリアは目を潤ませ、嬉しそうに笑った。その表情に、母娘の絆の深さがにじんでいた。母親が亡くなったあと、しばらくアメリアは遠縁の親戚に預けられていたらしい。
表向きは面倒を見ていたようだが、こちらに迎えたときのほつれた服や痩せた体を見れば、どんな扱いを受けていたかは想像に難くない。
……もっと早く迎えてやれていれば。今さらそう思っても、遅いかもしれないが。
アメリアが花を挿した花瓶をサロンのテーブルに飾ると、母上がふと目を細めミレナの花に気づく。そして、思ったとおりの言葉を口にした。
「アメリア、こういうことはメイドに任せておけば良いのです。あなたが自らする必要はありませんわ」
「母上、せっかくアメリアが心を込めて飾ったのですよ。どうか、褒めてあげてください」
アメリアは少し緊張した面持ちで、小さく声を出した。
「お屋敷の庭師の方から、オルディアーク公爵夫人が、このお花をお好きだと伺って……。喜んでいただけたらと思って……」
俺は母上の目を見て、穏やかに言葉を添える。
「母上が昔から好きな花だと知って、アメリアは真っ先にそれを選んだんです。メイドが形式で飾るのとは違いますよ。誰かを想って手をかけた花というのは、不思議と――綺麗に見えるものです」
母上は視線をテーブルの花に落とし――ほんのわずかに、口元をほころばせた。
「そうね……でも、摘むときに指を傷つけたりしなかった? ミレナの葉は見た目より鋭くて、うっかりすると手を切ることもあるのよ」
その一言に、俺は良い兆しを見いだした。――ほんの一瞬だったが確かに、母上はアメリアを心配してくれた。
――焦らなくても、こうして少しずつ距離は縮まっていくんだ。
「はい、大丈夫です。気をつけて摘みました。挿すときも、一本ずつ丁寧にしましたから」
アメリアも嬉しかったのか、照れたように笑った。
「さぁ、三人で朝食をいただきましょう。今日は……豆を発酵させたものを、試してもらいますよ。健康にとても良いんです。……米がないのが残念ですけどね」
そう言ったとき、母上とアメリアが同時に、ぽかんとした顔で俺を見た。ちなみに、この世界に米はない。
発酵させた豆――日本でいうところの納豆だが、パンに乗せてみると、うん、やっぱり何かが違う。母上もアメリアも、別のパンを手に取り、それ以上納豆を乗せたパンには手をつけなかった。
確かになぁ……合わないよなぁ。
醤油と白米、あれは偉大だったな……。




