8 母上と仲良くさせたい-1
その日、母上は午前中から寝室に籠もっていた。持病の頭痛が出たのだと、侍女が心配そうに告げてきた。
「ちょうどいい機会かもしれんな」
俺はアメリアに小さく笑いかける。
「昨日教えた魔法、覚えてるか? あれを……母上に、試してみるか?」
「えっ、わたしが……? ……はい。やってみます」
アメリアは驚いたように俺を見上げたが、俺の真剣な眼差しに気づくと、すぐに頷いた。俺も付き添ってアメリアと共に寝室へと向かう。
重厚な扉を開けると、優雅なレースカーテンが揺れる、白と金を基調にした寝室が広がる。
「……誰?」
「アメリアです。あの、失礼します――少しだけ、治癒魔法を使わせていただけますか? ……お兄ちゃんから教わってちょっとだけできるようになりました」
「お兄ちゃん? まったく、あなた達はおかしな遊びを始めた幼い子供みたいだわ。普通、貴族はそんな呼び方……まぁ、いいわ。それで、私に治癒魔法をかけてくれるのね? 本当にできるの?」
母上は咄嗟に俺の目を見つめ、その奥にあるアメリアへの真剣な想いを感じ取ったのだろう。口を開きかけたものの、何も言わずにアメリアへと手を差し出した。
アメリアは小さく息を吸い込み、俺に教わった通りに詠唱を始める。
指先に、ふわりと白い光が灯る。それは、かすかに揺れる灯火のような、穏やかな癒しの光だった。
その光を受け入れるように、母上はそっと瞼を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。
「……さっきより、少し楽になったような気がするわ。優しい魔法ね。気持ちが穏やかになるような」
「よかった……まだ上手にはできませんが、もっと練習して、またお役に立ちたいです」
アメリアの控えめな声に、母上はわずかに微笑みを浮かべた。完全に受け入れたわけではないが、少なくとも拒絶の色は見えない。 俺たちは、まだ始まったばかりの家族だ。だからこそ、焦らず一歩ずつ、心の距離を縮めていこう。
「これからは、できるだけ家族三人で食事を共にしましょう。もちろん、母上がパーティに出席されたり、俺が仕事で不在の時は仕方ありませんが。美味しいものを囲みながら、『美味しいね』と笑い合える食卓――最高のひとときだと思いませんか?」
母上は昔から少食で、朝食を召し上がらず、昼過ぎまでお休みになっていることも珍しくない。体質として、いわゆる低血圧気味なのかもしれない。昼食も紅茶と少量の焼き菓子だけで済ませてしまうことが多く、夜だけは比較的きちんと食事を摂られるが、それでも全体的に見ると栄養が偏っている印象は否めない。そのせいか、頭痛を訴えられることも多い。食事と体調には、案外わかりやすい関係があるものだ。
朝食は、一日の調子を整えるうえで、想像以上に大切だ――そう実感させられた経験がある。
これからは、家族三人で毎朝しっかりと食事を摂る習慣を築いていこう。
きっと、それだけでも少しずつ変わっていくはずだ。




