7 妹はお姫様
その瞬間、周囲の空気がピシリと張り詰める。小声だったはずのその一言が、なぜか屋敷全体に響いたような気さえした。
「……なんだ? 今、誰が言った?」
俺がゆっくりと顔を上げると、空気がさらに凍りついた。氷魔法が発動し、足元から淡い青光がにじんだ。次の瞬間、大理石の床を伝って凍結の波が走る。瞬く間に足元の空間を覆い尽くし、壁や柱へと白霜が這い昇っていく。天井のシャンデリアまでもが凍気に包まれ、凍りついた金属が微かに震え、『きぃん』という音が静寂に溶け込んだ。
誰もが息を呑んだ。寒さではない、威圧に――これが、俺の本気だ。
「名乗り出ろとは言わん。だが、聞いておけ」
静かに、しかし確実に通る声で言い放つ。
「今後――“庶子かどうか”で扱いに差をつけた者は、即刻処分する。それがオルディアーク公爵家の新しい方針だ」
ざわりと、場の空気が張りつめた。
アメリアは混乱した表情で、俺の袖をちょんと引っ張った。
俺は微笑み、頭をぽんと撫でてやった。
「今日から、お前がオルディアーク公爵家の“お姫様”だ」
アメリアが驚きの声を上げた瞬間、すかさず側に控えていた侍女がそっと膝をつく。
「お嬢様、足元が冷えませんように、ひざ掛けをお持ちいたしました」
次は別の侍女が小走りでやってきて、やたらふかふかしたクッションを持って来る。
「お嬢様にはぜひこの特製クッションを。中には風の精霊石を仕込んでございますので、座るとふんわりとした浮遊感をお楽しみいただけます」
アメリアはもう何が何だかわからないといった顔で、再び俺の袖に手を伸ばす。
「お、お兄ちゃん……これは、いったい……?」
「だから言っただろう。おまえは、もう俺のだいじな妹だ。だから使用人達は全力でアメリアを甘やかす」
俺は腕を組み、どこか得意げに答えた。
「文句があるか?」
アメリアはぶんぶんと首を振った。――それから、ぽつりと呟いた。
「……でも、なんだか、夢みたい」
「夢じゃないよ。これは現実さ」
俺がアメリアにそう言った瞬間、母上が声をかけてきた。
「レオニル、これはなんの騒ぎなの? アメリアがオルディアーク公爵家のお姫様ですって? 気は確か? その子は庶子なのよ?」
……母上にも、少しずつ意識改革してもらわないとな。目指すは、ソレスタ王国いちの仲良し家族だ。




