34 本当の家族に!
朝の陽光が、カーテン越しにやさしく差し込んでいる。
オルディアーク公爵家の豪華な大食堂に、三人分の食器が並んでいた。
銀のカトラリーが朝の光を淡く反射し、温かい湯気が食卓をふわりと包んでいる。
「お兄ちゃん、パン焼きすぎたかも……ちょっとだけ焦げた!」
アメリアが慌てて皿を運びながら、笑顔でそう言った。
だが、その表情は明るく浮き浮きとしたもので、うれしさで頬が上気してほんのりとピンク色になっている。
「大丈夫。少しぐらい焦げても、アメリアが焼いたパンならおいしいさ」
俺がそう返すと、妹は照れくさそうに笑って、母上の前に最後の一皿を置いた。
パンと野菜のスープに卵料理。シンプルだが、俺と母上にとってはこれほどのご馳走はない。
いつもはコックが料理をするが、今日は母上の快気祝い。
普通の食事が食べられるまでに回復したので、特別にアメリアが料理をすると張り切って作った朝食だ。
前日の夜から今日の朝を楽しみにしていたアメリアは、ベッドに入ってからも「どう焼いたらカリッとするかな」とか「卵はスクランブルと目玉焼き、どっちがいいかな」と、ずっと悩んでいたらしい。
その話を聞いて、思わず笑ってしまったが、その一生懸命さが愛おしくて、かわいらしい。アメリアは、もう立派な“家族”の一員だ。母上もついさっき、使用人たちの前で彼女を自分の娘だと宣言したばかりだ。
「自分のお腹を痛めた子ではありませんが、間違いなく私の子供です。心で結ばれた家族ですからね。血が繋がった家族よりも一段尊いものですわ。ですから、アメリアには正式なオルディアーク公爵令嬢として接しなさいね。あぁ、……私の養女にしてしまえばいいわねぇ。そうすれば、法律的にも正式な公爵令嬢……」
母上は満面の笑みで、アメリアが料理を並べるのを見つめながら、今後の計画を楽しげに呟いていた。長いまつげの奥の瞳が、喜びに輝いている。
あの厳格だった母は人が変わったように、アメリアに蕩けるような眼差しを向けていたし、俺を見る眼差しにも愛がいっぱい溢れて見えた。
あの厳格だった母上が、今ではアメリアに蕩けるような眼差しを向けている。俺を見る目にも、愛情が溢れているように感じられた。
「……ねえ、レオニル、アメリア。こうして三人で朝食を囲めるなんて、本当に嬉しいわ。アメリアが王都の学園に復学してレオニルまで行ってしまって……寂しくて仕方なかったのよ。心にぽっかり穴があいたようだったわ。また学園に戻るなら、今度は私も一緒に行くわよ!」
「いや、学園長が卒倒してしまいますよ。却下です」
俺は笑いながら首を横に振った。
ゆっくりと俺とアメリアに向けて、母上の手が差し出された。アメリアと俺は、その手を迷いなく取る。
「私、今がいちばん幸せかもしれないわ。命がけで助けてくれた息子と娘がいるんですもの! 長生きしなきゃね」
「お母様。私も今がいちばん幸せです。お兄ちゃんがいて、お母様がいて……本当に良かった。もちろん、長生きしてくださいね! ずっと一緒にいたいもの」
「この国一番の仲良し家族の誕生だな。母上、俺もほんとうに今が最高に幸せですよ」
俺は、しみじみとそんな言葉を口にした。指と指が、互いに触れる。温もりが伝わる。血の繋がりだけではなく、心で繋がる家族の形が、今ここにある。
かつて、前世の世界で守れなかったもの。どうしても手に入れられなかった、家族で過ごす幸せな日常。
静かに笑い合える日々は、人生における最高のご褒美だ。
――それを、今この世界で。
俺はようやく、手に入れることができたんだ!
完




