表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹は庶子、文句があるか?常識なんてぶっ飛ばせ!  作者: 青空一夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

21 sideアメリア

 商店街の端、少し人気のない広場に、不思議な乗り物が浮かんでいた。それは、小さな白木の小舟。水の上に浮かんでいるわけでも、何かに吊られているわけでもない。空中に、ふわりと浮かんでいた。


 私は思わず足を止めて、それを見上げる。

「……な、なに、あれ……?」

「魔導小舟だよ。街の上を少しだけ回ってくれる。安全だし、見晴らしもいい。……乗ってみるか?」

 お兄ちゃんが、少しだけ楽しそうに言った。


 内心びくびくしていたけれど――その手を差し出された瞬間、不思議と怖さが薄れていく。

 はい、と小さく頷いて、その手を取った。


 小舟に乗り込むと、ふわりと身体が持ち上がった。マリーは地上で手を振っている。

「マリー、行ってきまぁす!」

「お嬢様、楽しんで来てくださいねーー!」


 足元が宙に浮く感覚は、最初少しだけ、くすぐったかった。

「きゃっ……!」

「大丈夫。ほら、ちゃんと俺が隣にいる」

 お兄ちゃんの声は優しくて深みのある声、それだけで心がふわっとほぐれていく。


 小舟はゆっくりと、建物の間をぬうように上昇していく。私たちの後ろを、ルーンが青い羽をひらめかせて飛び、ピコルは小舟のへりにちょこんと座り、風を受けて耳をぴくぴく動かしていた。

「わぁ……見てください、お兄ちゃん! 王都が、こんなふうに見えるなんて……!」


 下に広がる景色は、まるで絵本のいちページみたいだった。

 赤い屋根、石畳の通り、広場の噴水。人の流れさえ、まるで動く絵のように見える。

「高いところ、怖くないか?」

「ううん。お兄ちゃんと一緒だから、大丈夫です!」

 そう言ったら、お兄ちゃんが少しだけ目を細めた。

「そっか。……なら、もう少し上に行ってみよう」

「ええっ!?」


 言い終わる前に、小舟がすこしだけぐっと上昇した。

 わたしは思わず、お兄ちゃんの腕にしがみつく。

「もー……!」

 お兄ちゃんは小さく笑って、「ちゃんと掴まってろよ」と私を支えてくれた。


 その瞬間!

「にゃっ……にゃーーっ!!」

 ピコルが、足元のへりからずるっと滑りかけた。

「ピコルっ!?」

 慌てて手を伸ばそうとしたその瞬間――頭上から、ルーンのからかうような声が聞こえてきた。

「え、まさか飛ぶの忘れたの? 羽あるでしょ~?」

「はっ……!」

 ピコルが自分の背中にある小さな翼を思いだし、ぎくりと固まる。


 そして、慌ててふわふわと羽ばたいて、自力で舞い戻ってきた。

「……おまえ、飛ぶこと忘れてただろ」

 お兄ちゃんが半ば呆れたように言うと、

「め、面目ないニャ……」

 ピコルはしょんぼりとわたしの膝の上にちょこんと座り込み、その背後でルーンが「チュイッ」と小さく笑ったように鳴いた。


「……もぉ、気をつけてよ、ピコル……それと……ルーンも普通に話せるんだ? すごい」

 ふたりの姿が可愛すぎて、思わず笑いがこぼれる。――だけど、その笑いのすぐあと、不意にこみ上げてきたものがあった。


 私は今、笑ってる。

 怖がったり、我慢したり、気を張っていた頃じゃ考えられないくらい自然に。

 こんな時間を、こんな風に過ごせる日が来るなんて――

 昔の私には、きっと想像できなかった。


「……お兄ちゃん」

「ん?」

「私、お兄ちゃんの妹で良かった」


 その言葉は、自分でも気づかないうちに、自然にこぼれていた。

 お兄ちゃんは驚いたように目を見開いて……それから静かに微笑んだ。


「……そうか。俺も、妹がおまえで良かったよ」


 空は高くどこまでも青く澄んでいた。

 この時間が、いつまでも終わらなければいい。

 私はそう思いながら、お兄ちゃんの隣で、小さな舟の旅を楽しみ続けたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ