20 兄妹デート-2
アメリアが嬉しそうに屋台の菓子を頬ばるのを眺めながら、俺はその表情を胸に刻み込んでいた。
妹の笑顔ってのは、どうしてこんなにも心を満たしてくれるんだろうな。
ふと、通りの向こうから音楽と歓声が聞こえてきた。人だかりができている。広場のようになった一角で、大道芸人たちが簡易な舞台をつくり、観客を沸かせていた。
「……見ていくか?」
俺がそう尋ねるよりも早く、アメリアの目が輝いた。
「はいっ!」
俺の手を引いて歩き出すアメリアに、ピコルが慌てて後を追う。マリーは一歩下がってついてきているが、彼女も楽しそうだ。
人垣の隙間を縫うようにして近づくと、ちょうど演目が切り替わるところだった。現れたのは、派手なマントを翻した男――魔道芸人か。片手に細長い杖のような道具を持っていた。
「さあ、お嬢さん、お坊ちゃん、注目してくださいよ~! 本日限り、空を舞う“火の鳥”の登場だ!」
おどけた声とともに、芸人が空中に魔法陣を描く。その中心から、炎で象られた鳥の幻影が――まるで命を持つかのように、羽ばたきながら飛び出した。
「わぁ……!」
アメリアの感嘆の声が、ひときわ可愛く、楽しげに響く。目を見開いて、炎の鳥を追いかけるように首を動かす。ピコルまで「にゃっ」と鳴いて、飛び上がりそうになっていた。
「さすがに本物じゃありませんよ~。触っても火傷はしません。ご安心くださいねぇ」
芸人がそう言ってみせると、何人かの子どもたちが手を伸ばした。
火の鳥はくるりと宙返りしながら、最後にはパッと小さく弾けて消える。
「ふふっ……素敵」
俺の隣でアメリアが笑った。
――火の鳥が空中で消えたあと、ひとりの女が舞台の前へ出てきた。
紫のスカーフを頭に巻き、金の鈴のついた杖を手にしていた。いかにも胡散臭い“占い師”だった。
「さあさあ、次は占いの時間ですよ~! そこの可愛いお嬢さん、あなたには、きっと素敵な運命が待ち受けている!」
指を向けられたアメリアが、ぱちくりと瞬きをする。
「わ、私ですか?」
「あなた以外に、誰がいるっていうのよ!」
占い師がどこからか水晶玉を取り出し、勝手に呪文のようなものをぶつぶつ唱え始めた。
俺は苦笑して見守っていたが、次の言葉で一瞬、動きを止めた。
「おやおや……これはこれは……すごいわよ? 三年後、あなたの前に現れるのは、紺碧の瞳を持つ高貴な青年。優しくて、誠実で、あなたを誰より大切にしてくれる運命の人……!」
アメリアの顔が、みるみる赤く染まっていく。
「えっ……そ、そんな……っ、わたし……」
「ふふふふ、まだちらりとも見かけてもいないわよ。でもね、その出会いが、人生を変えるの。まるで、おとぎ話みたいな恋が、始まるのよ~~!」
占い師の芝居がかった口調に、まわりの観客まで「おお~」と盛り上がり出す。
だが、俺は少しも笑えなかった。
「……くだらんな」
腕を組んだまま、アメリアの肩越しにじろりと占い師を睨む。
空気が一瞬、ピシリと凍った。――どうやら無意識に俺の氷魔法が漏れていたらしい。
「三年後? ふっ……その前に、俺がその男を氷漬けにしてやろうか?」
アメリアがビクッと肩をすくめる。
「お、お兄ちゃん、冗談ですよね!? ね!?」
「ああ、もちろん。冗談さ」
にっこりと笑って見せたが――言うまでもなく、冗談ではない。
アメリアを大事にする高貴な青年とやら?
簡単に妹が手に入ると思うなよ。
俺はまだ見ぬ未来の“敵”に、静かに闘志を燃やしていた。




