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妹は庶子、文句があるか?常識なんてぶっ飛ばせ!  作者: 青空一夏


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18/34

18 sideアメリア

 教室に戻ったとたん、なんだか空気が重たくなった気がした。

 私は知らないふりをして、自分の席へ向かう。

 でも、背中にぴたりと刺さるような視線を感じた。


 ちらりと振り返ると、やっぱり。

 ジェニー・ピアスン侯爵令嬢が、睨むような顔でこっちを見ていた。


 庭園でルーンに果物をあげてたとき、ちょっとだけ、彼女の姿が見えた。

 楽しくしていた私が、どうやら気に入らなかったらしい。彼女はこちらにゆっくりと歩いてきて、私の席の横でピタリと立ち止まる。


「……ずいぶん、楽しそうだったわね。オルディアーク公爵様に守られる気分は、まるでお姫様よね?」

 私に向かって、ピアスン侯爵令嬢が小さな声で尋ねた。

 私にだけ聞こえるような声で、穏やかな表情だけれど、刺々しさは隠しきれていなかった。


 私は一瞬だけ躊躇ったけど、すぐに笑顔を作った。

 大丈夫。なにかあったらお兄ちゃんが必ず守ってくれる。

 怖がる必要なんて、ない。


「はい、楽しかったですよ。それに“まるで”じゃありません。私はオルディアーク公爵家のお姫様だと、《《兄》》が言ってくれましたから。だから、私は毎日がとても幸せです」


 それに、私は決めたの。お兄ちゃんのことを“お兄ちゃん”って呼ぶのは、家族やピコルたちの前だけにするって。お兄ちゃんが私のことを本当に大切に思ってくれてるからこそ、その言葉を、他の誰かの前で軽く使いたくなかった。


 私は、お兄ちゃんの妹として恥ずかしくない自分でいたい。オルディアーク公爵家に恥をかかせないように。

 それに、オルディアーク公爵夫人――私を庇い、可愛がってくださるようになったあの方のためにも。……うん、ちゃんと胸を張って「私、頑張ってる」って言えるようになりたい。


 ピアスン侯爵令嬢の顔がぴくりと引きつった。

「なによっ! 半分しか同じ血が流れてないくせにっ……!」

 以前だったら、こんなことを言われたら泣いていたと思う。


 けれど今は、不思議と笑えてしまった。だって、私はオルディアーク公爵夫人からもお兄ちゃんからも、ちゃんと可愛がられている。

 大切にされている。

 だからもう、少しも惨めだなんて思わない。


 ――そんな言葉なんかで、もう私は傷つけられないわ。


「だから、なんなんですか? 私はピアスン侯爵令嬢に何か迷惑をかけましたか? 私が嫌いなら関わらないで、どうか放っておいてくれません? 私、あなたには何の興味もありませんから」

 ピアスン侯爵令嬢は呆気にとられた顔のまま踵を返し、そのままスタスタと自分の席に戻っていった。


 ──そのときだった。

 ふわりと風が吹いて、ピアスン侯爵令嬢の前髪が揺れた。

 その瞬間、ぺたん、と。おでこに……猫の肉球の痕?


 しかも、それが真っ赤な色で。まるで、教師が“良くできました”のハンコを押すときに使う朱肉みたいな色だった。思わず視線を教師用机に向けると、朱肉の蓋が開いていて――ちょうど、そっと閉まるところだった。


 私はすぐに察した。姿を消していたピコルが、こっそり悪戯をしたのだと。ピアスン侯爵令嬢のおでこに、ばっちり“しるし”をつけていったのだと。


『ピアスン侯爵令嬢にはお仕置きニャ。それから、アメリア! よく言い返したニャン。最高ニャ』


 ──ピコルの小さな声が聞こえた。ピコル、やりすぎかも。あの肉球の痕……なかなか落ちないかもしれないけど。でも……ありがとう。


 私は心の中で、そっとお礼を伝えた。


 *


 放課後、部屋に戻ると、ローテーブルの上にピコルがひょいっと姿を現した。特別室のこの部屋には、小さなソファとローテーブルが置かれていて、ちょっとしたティータイムも楽しめるようになっている。専属侍女のマリーが、紅茶とクッキーを準備して待っていてくれた。


「お仕置き、がんばったニャ! ピアスン侯爵令嬢、みんなにクスクス笑われてたニャン。精神的ダメージを与えたニャ。アメリアもよくやったニャ!」

 ピコルはクッキーを見ながら、私にキラキラした目を向けてくる。どう見ても、ご褒美をねだってる顔だった。


「ありがとう、ピコル。ご褒美に、そのクッキー、食べていいわ」

「いただきますニャ~!」

 ピコルは前足で器用にクッキーを一枚つかむと、ぺたんと座り込んでごきげんにかじり始めた。その姿が可愛くて、私は自然に笑みをこぼしてしまった。


「アメリア、はやく支度するニャ。主がこれから街に連れて行くって。兄妹デートなんて羨ましいニャン。ピコルも行きたい……」

 クッキーをもぐもぐかじりながら、ピコルがつぶやく。

「だったら、みんなで行こう。お兄ちゃんなら、絶対いいって言ってくれるわ」


 使い魔との精神交信って、声に出さずに離れたところでもやり取りができるらしい。

 やっぱりお兄ちゃんって……すごい!

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