16 sideジェニー・ピアスン侯爵令嬢
またオルディアーク公爵家の庶子アメリアが戻ってきた。前回ではヴァルレイン伯爵令嬢たちが虐めていたけれど、私は庶子なんかに興味はない。正統な血筋のオルディアーク公爵令嬢であれば、彼女に嫉妬しても仕方ないけれど。
だって、私はこの学園で一番身分が高い貴族でいたいから。誰にも負けたくない。
ところが、今回のアメリアはオルディアーク公爵様と連れだってこの学園に復学し、特別室に入った。あそこは王女殿下や王家の血を引く公爵家の子女だけが入れる部屋だ。
――つまり、正統な血筋のオルディアーク公爵令嬢として復学したってこと? 面白くないわね。
「……これからまたお世話になります」
以前とは全く違う、明るい表情で挨拶をするアメリア。髪は綺麗にハーフアップされていて、血色も良く軽く微笑みまで浮かべていた。しかも、その笑みは高位貴族だけが浮かべるような《《余裕のある表情》》で……以前、教会の慈善パーティでお見かけした、華やかな美貌のオルディアーク公爵夫人に似ていた。
――なにか気に入らないわ……
私はアメリアが横を通り過ぎた時、魔法をかけた。
足を滑らせて、みっともなく転んでしまえばいい。
「足を滑らせ倒れよ。ファトゥム・グラキウス――滑る運命」
けれど、アメリアは涼しい顔で私の横を通り過ぎ、窓際の一番良い席に座った。
――なぜ、私の魔法が効かないわけ?
休み時間になると、オルディアーク公爵様がアメリアの様子を見に来て、クラスの皆に「妹と仲良くしてくれ。よろしく頼む」と頭を下げた。その瞬間、教室中が一瞬で静まり返り、皆が驚きの表情を浮かべた。もちろん、私もその一人だ。
オルディアーク公爵家の血は尊い。二大勢力を持つ名門公爵家の一つとして、莫大な資産と資源に恵まれ、歴代の当主たちは叡智に満ち繁栄を遂げてきた。さらに、オルディアーク公爵夫人の実家は二大勢力の一方であるエルドレッド公爵家で、夫人の姉は王妃殿下、兄は宰相として国王陛下から深い信頼を寄せられている。
その二つの血筋を受け継ぐオルディアーク公爵様が――庶子であるアメリアのために、頭を下げた? 信じられなかった。
――馬鹿みたい……自分の正統な妹でもないのに。庶子なんて同じ血が流れているとはいえ、半分しか繋がりがない。なのに、どうしてあんなにも大切にされているのか、理解できない。
だから、二限目の授業で思わず魔法を使ってしまった。庭園の木の上に、アメリアのテキストを瞬間移動させてやった。
すると、青い鳥が突然そのテキストをくわえて、優雅に窓から飛び込んできて、アメリアの机にそっと置いた。そして、当たり前のように再び窓から飛び立っていった。
「え? アメリア様? テキストを、鳥が? どういうことかしら?」
担任教師が驚いた声で言った。
「あぁ、多分アメリアにいたずらした子が、アメリアのテキストを、木の上にでも瞬間移動させたんでしょうね」
その時、オルディアーク公爵様が突然アメリアの横に現れた。
物体の瞬間移動は高位貴族にはよく使われる魔法だから、特に驚くことではない。
しかし、人間が瞬間移動するのは非常に難しく、成功する者は少ない。そのため、実際に見るのは初めてだった。
「誰がやったかは問わないし、今回だけは許そう。しかし、次は、容赦しない」
――ひっ。こ、怖い。オルディアーク公爵様がちらりと私を見て、冷たい微笑を浮かべた! ばれてる、確実に……
お昼休みになって席を立とうとしたら、なぜか何もないところで足が滑り、転んでしまった。
周りのクスクスと笑う声が私の羞恥心を煽る。
アメリアを滑稽に転ばせようとしたイメージ通りに私が転んでしまうなんて。
――私のお淑やかで素敵なイメージが…崩れてしまったわ。
それに、さっき何かの声が聞こえた。姿は見えないけれど、ここには何かがいる気がする。
『悪いことをしたら、お仕置きニャン』という微かな声が聞こえた気がする。
――一体、この教室には何がいるの? それにあの鳥って?




