第八話 熱
フィアナがしつこいくらいに火魔法のことを聞いてきていたので、ついに披露することにした。
「お母さま、これです! これが、火です!」
俺の掌に、ぱちりと小さな火が灯る。指先サイズのちっぽけな炎だけど、この世界の人間から見たら革命だ。
「これが……『火』?」
フィアナは目を丸くして、細い指をそっと炎のそばへ伸ばしてきた。
「あっ、危ないですよ!」
「あら、そうなの? でも、フレアの言うとおり……ほんのり暖かいわね」
「はい! これなら冬も凍えません! 人類の文明が一歩進みますよ!」
俺が胸を張ると、フィアナはふわっと笑って、優しく俺の頭を撫でた。
この世界に来てから、俺を肯定してくれる人なんてほとんどいなかった。
それだけに、この手のひらはやけに温かい。
……ずるいな、ホント。
「お母さま、僕もっと色んな魔法つくりますから!」
そう宣言したとき、横でパブレがこちらをじーっと見ていた。
いや、見すぎ。視線で何か訴えてきている。
(な・に・か・し・ろ)
お前が直接声をかければいいだろ……。声もかけられずに、どうやってフィアナを落とす気なんだ。
まったくこれだから童貞は。
でも、パブレはそこまで嫌いじゃない。
まあ、フィアナがいないと口は悪いし、態度でかいし、あとちょっと臭いし。
でも、貴族やら金持ちやらと違って――
パブレは愛がある。
シャイで童貞だけど、金ですべて解決しようとするクズではない。
まあ、こんなこと本人には絶対言わねぇけど。
◇
すると翌日。
「フィアナ様が倒れたぁぁぁ!?」
パブレの叫びで飛び起きた。
部屋に駆け込むと、フィアナは布団の中で苦しげに息をしていた。
顔が真っ赤。汗びっしょり。
「お母さま! 大丈夫ですか!」
「フ、フレア……ごめんなさい……今日は……」
「喋らないでください。僕がやります」
心臓がぎゅっとなる。
だって――あのフィアナが弱ってるなんて、見たことない。
きっと疲れたんだろう。それに冬だし、寒いし、まあとにかく無理をしたのだ。
……だったら。
「よし。任せてください。今こそ、親孝行の時間です」
火魔法――出番だ。




