第三話 家庭教師
「フレア〜！ 五歳のお誕生日おめでとう〜！！」
フィアナからの歓声。
……いや、誕生日は三ヶ月前ですけど？
振り返ると、母――フィアナがプレゼントらしき細長い包みを抱えて飛び跳ねていた。
テンションがいつもより三割増しだ。なぜだ。
「誕生日プレゼントよ〜！」
「えっと……誕生日会は三ヶ月前に終わりましたよね？ その時にも服を山ほど……」
しかも全部フリフリの女の子向け。いや、着たけどさ。泣きながら。
「これはその時に間に合わなかったの！ さぁさぁ受け取って〜！」
……こういうの、逆らうとさらに面倒になるんだよな。
よし、素直に受け取ろう。これも甘汁モンスターへの第一歩だ。
手に取ると、見た目より重い。
「開けますね、お母さま」
フィアナは全力で頷き、俺の顔をじーっと見ている。
期待の圧がすごい。胃にくるタイプの圧。
包みを開くと――魔法の杖が出てきた。
赤い魔石に、天使の羽みたいな装飾。
五歳児にはサイズがデカすぎる。両手でなんとか持てるレベル。
さすがにこれは本当に凄い。
ならば、演技も本気モードでいくか。
「ありがとうございます、お母さま！ こんな立派な杖、一生大事にします！ お母さま、大好きです！」
抱きついて足元にぎゅっ。
どうだ、この完璧美少年ムーブ！
……フィアナ、号泣した。
「買って……良かったぁぁぁ！！」
天を仰ぎ、悟りを開いた聖人みたいな顔をしている。
鼻水も盛大に出ている。
「お、お母さま、鼻水……」
やれやれだ。
でも本当に良い杖だ。重いけど。主に愛が。
◇
コンコン、と玄関のノック。
「あ、来たー！」
フィアナが軽い足取りでドアへ向かい、楽しそうに誰かと話し始める。
テンションまだ高いな。杖パワーか？
やがて手招きで俺を呼んだ。
出てみると、三十代半ばくらいの男性が立っている。落ち着いた笑顔。
いや知らない人なんだが？
「やぁ、フレアくん。立派な杖だね」
「お母さまからのプレゼントです。それで、あなたは？」
フィアナがキラキラした目で言う。
「フレア、紹介するわ！ 今日からあなたに魔法を教えてくれる家庭教師、パブレさんよ！」
「……え？」
五歳児、魔法家庭教師がつきました。
