第十三話 六歳
――あれから季節が過ぎ、冬は終わった。
俺は六歳になった。
※中身は三十ン歳のまま。肉体だけ子ども。
で、我らがストーヴ君はというと――
想像をぶっちぎる勢いで売れていた。
最初は「怪しい箱」だの「火の精霊でも入ってるのか」だの言われたが、
口コミ、噂、そして怒涛の寒波が追い風となり……。
結果、二か月で八十万台突破。
八十万。
もはや家電というより国家インフラ。
王都ギルドの発表では、冬季の低温死者数が前冬の五分の一まで減ったらしい。
去年一六〇〇人死んでたのが、三百ちょっと。
つまり――
ストーヴ、国を救った。
(俺、異世界で社会貢献しとる……!)
あのブラック会社時代の俺が聞いたら、鼻で笑うだろう。
でも、これが現実だ。
当然、売れた分だけ金も入る。
家は王都に引っ越し、庭付きの大邸宅に。
魔法ランプ常備、上下水道つき、床は冷えない。文明最高。
フィアナはママ友をさらに増やし、
「ガーデンティーパーティー」なる謎の儀式にハマっている。
俺?
パブレと魔法訓練しながら、次の発明を練っている日々。
◇
で、問題のアリス。
彼女は誕生日の関係でまだ六歳。結果――
「フ、フレアくん……きょ、今日は一緒に遊べる……?」
「いいよ、アリス」
あれ、柔らかい。
昨日まで"アリスさまさま"モードだったのに、急に距離が近い。
同い年になった瞬間に貴族スイッチが切れる謎。
「アリス、そこのペン取って」
「うん!」
「アリス、今日はもう遊びはやめにしよう」
「うん!」
「アリス、俺の魔法使いになるよう励んでくれ」
「うん!」
……素直すぎて逆にこわい。
◇
そんな平和な日々をぶっ壊すように、ある日――
ウォーリー商会から急な呼び出しが来た。
フィアナと馬車に乗り、久々に商会本部へ向かう。
(新商品? いや、在庫問題? それとも……特許侵害)
考えただけで、吐き気がする。
そして、応接室。
会長がいた。
いつもの穏やかな笑顔ではない。
眉間に深いしわ。
低く、重い声。
そして一言。
「……問題が起きた」




