第十二話 1250
――ストーヴが世に出て、二週間が経った。
俺は今日も湖畔で魔法訓練中だ。
教官はおなじみ、パブレさん。
「フレア! 魔力の流し方が雑だ! もっと繊細に――!」
とか言ってるけど、正直、こいつは"フィアナのそばにいられる口実"で来てるだけだ。
魔力? 繊細? お前が言うな、パブレよ。
(……はやく別の家庭教師、来てくんないかな)
そんなことを思ったそのとき――
「フレアちゃーん! パブレさーん!」
家の方で、フィアナの声が響いた。
「なんだ?」
「なんでしょう?」
俺とパブレが顔を見合わせる。
そして戻ってみると――
――立派な馬車が家の前に止まっていた。
「「……えっ!?」」
俺、フィアナ、パブレ。三人そろってフリーズ。
馬車から降りてきたのは――ウォーリー商会の会長本人だった。
(……絶対怒られるやつじゃねえか)
いやな汗が流れる。
ブラック時代の"上層部直々の来訪=地獄"っていう条件反射が発動。
会長は無言で懐から紙を取り出し、俺に差し出した。
「……これは?」
見る。
そこに書かれた数字は――「1250」。
(……は?)
俺は一瞬で悟った。
(終わったァァァァァァ……!!)
ストーヴ一台300ギル。
つまり二週間で4台しか売れてない計算!
(オワタ……完全に詰んだ)
商品売れない=在庫の山=会長ブチギレ=「落とし前どうつける気や?」=「すみません、なんでもしますので命だけは」=奴隷として使われる=酷使される=廃人=死亡ルート。
「……もう殺してください……」
会長の眉がピクリと動いた。
「フレア殿。通常、二週間で売れれば良い数は――十台だ」
(なんでもいいから、もう殺してくれ……)
パブレが青ざめ、フィアナは今にも泣きそう。
だが――
「……だがな」
会長がゆっくりと目を細めた。
「君は、二週間で――」
「……」
「――十二五〇台の受注だ」
(……………………え?)
「じゅ、十二……五〇……?」
会長が破顔した。
「おめでとう!! 爆売れだ!!!」
「ば、爆……!? う、売れ!?」
「王都の広場で実演した瞬間、行列ができた!
兵舎、孤児院、貴族の屋敷、商家――みんな欲しがっている!」
俺の膝が笑った。
頭の中が真っ白になる。
(ま、マジか……! とりあえず、死亡ルート回避か!!)
フィアナは目に涙を浮かべて叫ぶ。
「うちの子が……! 世界を暖めてるのねぇぇぇぇ!」
こればかりは、大袈裟でもない。
パブレは号泣。
「フレアぁぁぁぁ! 偉いぞぉぉ!」
カオスな状況の中、会長は俺の肩に手を置いた。
「君の作ったものは、人を救う。誇りを持て、フレア」
その言葉が、胸の奥まで染みた。
俺の作ったストーブが――
誰かを――
世界を、救ってる。
「……やってやるか」
「ん? なんと?」
「あ、いえ! が、がんばります!!」
――ストーヴ革命、始まったばかりだ。




