第十話 アリスさま
フィアナの熱が下がって数日。
すっかり元気になった彼女は――やたらテンションが高かった。
熱が治った反動だろうか。
「今日はね、ママ友が来るの! 楽しみね、フレア!」
「え、ええ」
(いや、冬だぞ……? なんで来んだよ……)
そんな俺の心配を吹き飛ばすように、玄関が勢いよく開く。
「フィアナちゃ~~ん! 来たわよーっ!」
「寒かった~! でもなに? なんか、ここ、あったかいわね!」
うるさい。
いや、元気だ。てかフィアナが二人増えた感じ……。
その中のひとり――ウェリスは娘を連れてきていた。
「アリス、ご挨拶は?」
「……来てあげたわよ、フレア」
「アリス……」
娘――アリス。六歳。
俺より一つ上。
で、何より生意気。
初めて会った三歳の頃から、常に女王気質である。
「アリス様と呼びなさいって、いつも言ってるわよね?」
(……何度、こいつに俺のほんとの精神年齢を言ってやろうかと思ったことやら)
「……アリス様、ようこそ」
「よろしい。あ、そうそう、この杖を買ってもらったの。可愛いでしょう? あなたも、将来は私の護衛魔法使いとして働きなさい。光栄でしょう?」
(光栄なわけあるかぁぁい)
心の中で絶叫しつつ、表情筋は従順。
そんなとき、アリスがふとキョロキョロして言った。
「それにしても……ここ、なんでこんなに暖かいの? 冬よ? まるで太陽が家の中にあるみたいじゃない」
(やっぱ、気づくよね〜)
案の定、他のママ友たちもざわつき出す。
「本当ね……普通なら凍える時期なのに」
そして――
フィアナが胸を張った。
嫌な予感がした。
「ふふん! 実はね――フレアがすとーゔを作っちゃいました〜!!」
(やめろおおお……!)
「火? というものを扱えるそうで!」
(なんか余計なことを言いそうな気が――)
「あとね、フレアは水魔法を使うと漏らしちゃうの」
(最悪だあああああ!!)
「えっ、漏らすの?」
「男の子なのに?」
「可愛いわねぇ~」
死にたい。
地面に穴があったら入って、火魔法で自爆したい。
アリスも冷たい目で見てくる。確実に、パシリが増えるぞ、これ。
そんな俺の魂を救ったのは、一人の声だった。
「――売ればいいんじゃない?」
声の主は、ママ友のひとり、ノルナ。
大人びた態度の、貴族風の女性だ。
「素晴らしい装置だもの。うちの商会を通して、商品にすればいいわ」
「しょ、商品!?」
フィアナが目を丸くする。
「ええ。父上に申請しておきますわ。これほどの品、見逃す手はないと思うの」
……やばい。
でかいとこにバレた。
「え、えっと……その……」
「フレア、やったじゃない!」
フィアナが俺の肩を抱きしめる。
「お、お母さま……?」
「あなたの発明が世に出るのよ! すごいことじゃない!」
すごい……か??
いや、絶対なんか起きるだろ。
火のない世界に、火を広める。
それは、誰かの救いになるかもしれない。
でも同時に――
誰かの幸せを壊すかもしれない。




