第一話 暖かい転生
――ああ、暖かい。
胸の奥が、ゆっくり溶けていく。
冬の朝、布団の中でまだ寝ていたくて、
太陽の光がじんわり差し込んでくるあの瞬間。
いや、もっと安心感がある。
世界に急かされない、静かな場所。
「もう少しだけここにいていいよ」って許されたみたいな――そんなぬくもりだ。
「〜〜♪」
歌声が聞こえる。子守唄だ。
意味はわからない。でも……胸がぎゅっとなる。
ああ、やばいな。
涙って、意外と簡単に出そうになるんだな。
いっそ泣くか。泣っ――
「うぎゃあああああ!!」
――いや誰だよ。
俺の感動を返せ、新生児。
泣くタイミング被りたくないけど、まあいい。
なら俺も――
「うぎゃああああああ!!」
だから、同期すんなって。
まさかの赤ちゃんと阿吽の呼吸かよ。恥ずかしいぞ。
しかも即泣き止む。プロだな? 泣き職人か?
さて、気持ち整えて――
ふわっ。
頭に優しい手が触れた。撫でられている。
柔らかくて、あたたかくて、呼吸が落ち着く。
……あれ?
誰だ触ってるの。
俺、ひとり暮らしだよな……?
狭いワンルーム、家賃十万、ベッドは、人間をダメにするヨ◯ボー。
帰って寝落ちたはずだよな?
なのに――
目の前には見知らぬ女性。
優しい目。優しい手。
そして俺は……
小さい。
手が、ほら、こんなにもぷにぷにで。
声出してみたら――
「……あぶぅ」
……はい、終わった。
これはもう、認めるしかない。
俗にいう"転生"――ってやつだ。
社畜十年やって、次は赤ん坊か。
笑えるほど極端だ。
でも――
心があったかい。
優しい手がある。
泣いてもいい場所がある。
前の人生には、そんな瞬間、ほとんどなかった。
なら、悪くないかもしれない。
今度こそ、ちゃんと生きてみよう。
逃げずに。
失わないように。
大切なものを大切にできるように。
――もう一回、始めよう。




