009
僕らが見ている物置小屋は、近づくとさらに異様に見えた。
それは、普通ではない。小屋が、真っ黒く焦げていた。
木造の小屋が、煤だらけの黒に変わっていた。
「火事でも、あったのかな?」
燃えた物置小屋を、僕とイグアスはそばで見ていた。
煙は上がっていない。
焦げた炭が、比較的新しい。
火事になったのは割と最近だと、推測できた。
「もしかして、ここで行われたんじゃないか?」
「だとしたら、出てくるかもね」
僕とイグアスが、黒い柱の建物に入ろうとした。
その時、一人の人間が近づいてきた。
無骨な顔で、日焼けした男性がやってきた。
彼も見た目は農夫で、白いシャツに緑色のズボン。
足元は泥で汚れた若い男性が、近づいてきた。
「おめえら、なんだ?」
「あなたは?」
「俺の名は、マグワ。
この近辺の田んぼが、俺の所有地だ」
よく見ると、さっきの農夫とあぜ道一本分反対側に見えていた。
男の声は、少し訛っているようにも聞こえた。
「なるほど。この近辺は、あなたが所有する田んぼでしたか」
「ああ、この田んぼは俺が先祖様から受け継いだ田んぼだ」
「では、この小屋も?」
「そうだ、そこには農具を入れていた。
鍵もしっかりかけていたんだが、放火されたんだ」
「いつですか?」
「三日ほど前だ」
マグワは、僕の質問に普通に答えていた。
田んぼを耕す鍬の焼け焦げた跡も、遠くからだけど見えていた。
壁も燃えていて、仲が少し見えた。
壁は焼け朽ちて、柱までもが燃えていて、焼けずに無事に残っているものはない。
「そうですか」
「あの、雷獣がこのあたりに現れたとか?」
「うーん、近くの田んぼに出たらしいけど。俺はよく知らね」
「そうですか。フム」
僕は、マグワの話をじっと聞きながら考え事をしていた。
「なんで、そんなことを聞いているんだ?
あんたら、自警団の仲間か?」
「まあ、そんなところです」
だけど、僕は静かに前を向いていた。
「ねえ、ダンタリオン?」
僕のそばで、耳打ちをするイグアス。
「いったんここは、彼に話を合わせよう」
僕とイグアスが耳打ちをして、前にいる農夫に向いていた。
「ありがとうございます。それじゃあ僕らはこれで。
お仕事中、失礼しました」
僕は深々と例をして、イグアスと離れた。
近くでは、ルメーノが顔なじみの農夫と話したままだった。