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雷の鳴る帝国  作者: 葉月 優奈
二話:記憶を失った復讐者
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厳かにこの部屋に入ってきたのは、一人の司祭。

神々しい神衣に、二人の付き添いの人。

真っ白な法衣に、長く大きな白い帽子。

神様を書かれた紋章と、大きな十字架を持った老婆の司祭だ。


老婆ではあるが、僕はその人物を知っていた。

いや、僕だけじゃない。

記憶を失ったイグアス以外、全ての人間が知っている帝国の有名人。


「大僧正オクスブリング様。どうしてここに?」

帝国の国教キュベリオンの最高司祭、オクスプリング卿。

オクスブリングは、この帝国内では皇帝よりも偉い存在だと言われていた。


「よい、彼女が記憶を、失ったのか?」

「はい、雷鳴師イグアスにございます」

ワイヒラウが、深々と頭を下げた。

イグアスは記憶を失っていて、キョロキョロとしていた。

雷に打たれる前は、無論オクスブリングの名前は知っていた。

でも今は、やはり記憶がない。


「かわいそうに、キュベリオン様の加護があらんことを」

十字を切って、天に祈るオクスブリング。

その姿を見て、ワイヒラウの隣にいたゴグダは興奮していた。

グラも、おどろいて目をつぶっていた。


「わざわざオクスブリング様は、彼女を見てくださるとのことですか?」

「無論だ。彼女は貴重な力を持つ雷鳴師。我が帝国の優秀な人材。

彼女を救うことこそ、国のためにもなろう。

彼女のような貴重な人材を、みすみす失うわけにはゆかぬ」

老婆オクスブリングが、イグアスの前に膝をついた。


大柄のイグアスも、オクスブリングのオーラにさすがに押されていた。

神の生まれ変わりのようなオクスブリングは、本物の神様のように神々しかった。

イグアスの目を、じっと見ているオクスブリング。


「どうですか?」

「赤雷によって、全ての情報を失われています。

それは、あなた方もわかっているでしょう」

「ええ」

「雷を受けて、体も膨張しているようでさらに大きくなっていく。

このままいけば、彼女の体が壊れてしまう」

「そ、そんな」僕は、落胆の声を漏らした。

イグアスを、絶対に失いたくない。


唯一の戦友を、失った僕は二度と戦えないかもしれない。

イグアスは、僕にとって最高の相棒なのだ。

だから、どうしてもイグアスを救いたい。


「イグアスを、イグアスを救うにはどうしたらいいですか?」

「赤雷から、情報を取り返すしかない」

「やはりそうか」

だけど雷神『赤雷ママラガン』は、神出鬼没だ。

レモフィラに赤雷の雷獣がいたけど、雷神はどこにいるかわからない。


そもそも赤雷ママガランは、フェザーとの戦いの後から僕はずっと探していた。

故郷を滅ぼした最強の敵であり、仇だ。

倒さなければいけない仇の情報は、いまだに手がかりすらない。

そもそも、男か女かさえもわからない相手なのだから。


「赤雷の雷神ママラガンは、どこにいますか?」

「奴は、帝都ライザーに現れる!」断言したオクスブリング。

「本当に?」

「既にこの帝都に、居るのかもしれない。

赤雷の雷獣が、ライザー大橋に感じられた」

「ライザー大橋といえば、帝都に入るための大きな橋。そこに赤雷ママラガンが?」

ワイヒラウの言葉に、オクスブリングが頷いた。

大僧正オクスプリングの天啓は、よく当たる。

神に限りなく近い力を持つ帝国随一の司祭は、はっきりと予言していた。


だからこそ、僕はいてもたってもいられなかった。


「僕に行かせてください!今すぐ、ライザー大橋に!」

僕はワイヒラウに、自分からの意思をはっきりと伝えていた。

ワイヒラウは、僕の言葉に困った顔を見せていた。


「そうはいきたいんだが、長旅から帰ってきたばかりだろう。

ダンタリオン、今日はゆっくり休め」

「でも、僕は戦えます!」

「無理だ、今日はゆっくり休め。俺が倒してやっから」

僕を諭したのは、背の高いグラだった。


「それに疲れているのは、君だけじゃない」

ワイヒラウが、僕の隣にいるイグアスを指さしていた。



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