表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

教授との戦闘

「2つ?」


 俺は殺した代価に要求される2つのことが全く想像できなかった。

 何をすれば死と釣り合うのか、到底計り知れない。


「じゃあ、まず簡単な方からね。たった一つ、質問に答えてくれればいいわ」


「なんで私を殺したの?」


 心臓がはねる感覚をここまで鮮明に感じたことがあっただろうか。

 罪悪感や恐怖が底冷えするような感覚となってやってくる。

 

「あ、ああそれは」


 声の震えが収まらない。

 伝えるはまとまっているのに口が動かない。


「ゆっくりでいいわ。ただ、知りたいだけ。どんな理由であれ彼女に伝えなきゃいけないから」


「ああ、わかった。」


「まず、俺が2重人格になった時の話からしよう」


 そういって過去の事件を話した。

 

「それで多分、俺はもう一つの人格、”僕”を作ったんだ」


「ぎりぎり日常生活ができるぐらいの範囲で自己肯定感が低い人格を創造したんだと思う」


「そうしたら、英雄願望なんて抱かず、あの状況で最悪の選択をすることもなかったはずだ。」


「でも、よく知ってるだろう? ”僕”には絶対的な柱ができてしまった」


「それがもう一人のほうの君だ」


「そうして、わりと病みながらも強い芯を持ってしまった」


「だから、あいつは今回の2択で昔の俺と同じ選択に走るところだった」


「俺はそれになんとなく気づいていた」


「成功するなら成功するでいいと思った。けど、あの教授が剣を扱うところを見て絶対に無理だと悟った」


「また、みんな死ぬ最悪の結末になると思った」


「だから、君かクラス全員か、どっちかだけでも救える道を選んだ」


「これでいいかな?」


「わかったわ。あなたもつらかったのはわかるけど、慰めないわよ」


「私たちも痛かった。苦しかった。だからこれでお相子」


「もちろんだ。それでいい」

 

「それで? もう一つはなんだ?」


「それはね、戦いの手助けをしてほしいの」


「戦い? なんの?」


「もちろんあの教授に決まってるじゃない。それが終わったら解放してあげるわ」


「はぁっ!? あの教授と戦うのか?」


「そりゃそうでしょ。私はそのためにこの町に来たんだし。まぁ、そっちはついでだけど」


「まぁ、百歩譲って戦うとしても俺は何もできないぞ?」


「いいや、やってもらうわ。囮でもなんでも命を懸けてやってもらう」


 彼女の視線が突き刺さる。本気であることは間違いないようだ。

 

「わ、わかった。けど、生き返れる、いや死なないんだろ? だったら俺がいなくても大丈夫なんじゃ...」


「ねぇ、あれだけのけがを負って無条件でここまで再生できると思う?」


「あ、えと、いやそんなはずはないと思う」


「そう、つまり私は弱ってるの。だから力を貸してほしい」


「もちろん断ったりしないわよね?」


 私を殺したんだから。とそのあと続きそうな含みのある言い方だった。

 俺はやれるのだろうか。

 

「断ってももう遅いようだけど」


「え?」


 彼女のかなり後方に人影が見える。

 夜の月に照らされたシルエットはさながら紳士のようだ。

 そして、何より手元にある月の光を反射している剣。

 ここまで確認できれば俺も流石に理解できた。


「なんで、あいつがここに来てるんだ?」


「知らないわ。私たちが消えていたから探したんじゃない?」


「そりゃそうか、あの状況で消えてるやつがいたら気になるわなぁ」


 そう言っている間にもシルエットは大きくなり、足音も聞こえるようになってきた。


「あ、あと言い忘れてたけどもう一人の方にちゃんと説明しときなさい」


「多分、あなたたち”二人”いないと対処できないわ」


 そういって彼女は教授の方に向き直った。

 その背中は華奢だが、やけに頼もしく見える。

 俺も頑張ろうという気にさせられる。

 

(これが背中で語るってやつか...... 多分違うけど)


(おい、出て来いよ...... 途中から意識あっただろう?)


(陽彩が生きてる...... 生きてる! あとでお前は本気で殺す)


(わかったから、状況は理解してるか......?)


(いや、わけわからんということしかわからん)


(そうか、実は俺もだ)


(でも、やるしかないらしいね)


(ねぇ、そういえば僕らに異能はあるのかな)


(確かに、そういった感覚はなにもなかったからな)


(でもそれがないと、教授に太刀打ちするの不可能だと思うんだよね)


(最後の言葉は絶対そういう意味だよなぁ......)


「避けて!」


 迫真の声に応じてそちらを振り向くと、銀色の光る何かが放物線を描きながら落ちてきていた。

 俺は状態を反らし、ぎりぎりで避ける。


「あっぶね!」


 俺が避けて地面に落ちたものを見ると、それは剣の切っ先だった。


「素手で折ったのか!?」


 教授の凄まじい剣戟に陽彩は格闘で応戦していた。

 上段からくる攻撃を体を反らすだけの最小限の動きでかわし、カウンターを入れる。

 教授の方は、当たらない攻撃に焦ったのか後方へ飛び、一旦距離をとった。


「あなたも私と同じということですか」


「そういうことよ。ずいぶん弱い剣だけれど大丈夫かしら?」


「心配していただく必要はありません。こんなのまだまだ序章に過ぎないのですから」


 そう言って教授は両手を広げた。

 教授の後方からは大量の鎖が地面から立ち昇る。

 滑り台の2倍ぐらいの高さまで上がった後、停止した。

 そして、それは当然俺たちに降り注ぐ。

 俺は、一旦公園の外に出て、階段を遮蔽にして隠れた。

 しかし、鎖はさらに上空へ行き遮蔽を回り込んで攻撃してくる。


「おいおい、まじかよ!」


「いいから、避けて! そっちに分散すれば私も助かるわ」


「わかった! 頼むぞ!」


 結局公園の中に戻り、追ってくる鎖を避けながら縦横無尽に駆け回る。

 

(このペースならなんとか大丈夫そうだ)


「うーん、なんだか余裕そうですね。だったら増やしましょうか!」


 鎖が4方向から俺を取り囲むように攻撃してくる。

 タイミングを合わせて全力でジャンプして躱す。

 鎖がそれぞれぶつかりあって少しだけ猶予が生まれた。

 俺は教授の方へ駆けてゆく。

 教授は剣を持っていない。無防備だ。

 どうせこのまま攻撃され続けたらじり貧になって終わる。

 

「待って! ダメ!」


 その掛け声で俺は静止する。

 あいつに協力すると約束したんだ。

 ここまで来て自分の考えに固執して突っ込むなんて馬鹿はしない。


「おや、来ないのですか?」

 

「あいにく俺の命は俺だけのものじゃないんでね」


「そうですか、ではリスタートといきましょう!」


 再び鎖が俺をめがけて襲ってくる。

 今度も同じく4本。

 だが、先ほどみたく囲まれないように立ち回る。

 滑り台や、ブランコなどわずかな遮蔽、隙間も活用して必死に避ける。

 あいつが起点を作ってくれるまで。

 

(まだまだ体は大丈夫そうだ。これ、あとどのくらい続くと思う?)


(それはわからない。けど、なんとなく僕らの能力についてはわかったかも)

 

(いや、”俺”の異能って言った方がいいかな)


(まじか!? 教えてくれ)


(まあ言っても変わらないんだけどね。多分、その無尽蔵な力だよ)


(なるほど!? 確かにこれだけ動いてきつくないのはおかしいか)


(あ、そういえば痛覚が鈍いとか言ってたよね?)


(ああ、そうだ。なんか色々鈍いんだよ)


(じゃあ、感じてないだけで負担はかかってるし、いずれ動かなくなるかも......)


(そんなことなら知りたくなかった!)


 脳内会話をしている間にも鎖の猛攻は続く。

 でも先ほどから鎖が単調な動きしかしていない。

 よけやすすぎる。まるでどこかに誘導されているかのような。

 

「まずっ!!」


 足が穴に引っかかって転びかける。

 空中で奴の狙いに気がついたときには遅かった。

 これは、俺を狙うと同時に地面を攻撃したせいで出来た穴だ。

 そこに俺を誘導して、転ばせる。

 見事な作戦だ。

 

(関心している場合じゃないだろ!)


 手を地面につき、そのまま前転の要領で前へ飛び上がる。

 そこに鎖が襲い掛かり、俺の足をかすめていった。

 転んだにしては被害が少なく済んだんじゃないだろうか。


(掠ったで済んでないし...... 痛覚おかしいんだからちゃんと認識して)


(すまん...... でもまだ動くから許してくれ)


(いいから、さっさと次を考える。出来るだけ体に負担をかけないように避けて)


(僕は、異能についてもう少し考えてるから)


(了解! 全力で時間稼ぎする)


「はぁっ!!」


 そう思っていたのだが、次の瞬間陽彩が強烈な一撃を教授の鳩尾におみまいしていた。


「ぐっ!」


 だが、教授はよろめきながらもその腕をつかみ、陽彩を空中に投げ飛ばす。

 そして、それを追従するように全ての鎖が動き、陽彩に直撃する。

 弾き飛ばされた陽彩は、鎖にからめとられ、教授のところまで引き戻される。

 

「あの時の再現でもしましょうか」


 陽彩は鎖で磔にされ、教授は挑発的な笑みで俺に言った。


「今度こそ彼女を救えるといいですね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ