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ブーメラン勇者は凱旋したい〜バグ世界に転生〜

全体攻撃。一網打尽。

おれはブーメラン勇者。すでにレベル50。

でも何もしてない。

全体攻撃しやすい弱めのグループ敵が集まる狩場(故郷の近所)でレベルアップしまくったおれは、あたりではチマチマした勇者と後ろ指を指されていた。

ちがう、おれは全体を豪快に一掃する勇者だ。戦闘では。

いつか魔王軍も故郷から一直線に一掃してやる。無敵の一撃ブーメラン勇者として、この世界で無双するのだ。


そんなおれは、いつしか初期のダンジョンから帰れなくなっていた。

はじめて入ったダンジョンなのに、どうなってんだよ…… ?


「バグった?」

おれの独り言を、僧侶が不思議そうに受け流す。

「またわけのわからないことを。またコマンド入力とかするんでしょ。」

「いや、出られないじゃん、ダンジョンから。」

「そういえば、おじいさんがなかなか道を空けてくれませんね……ずっと酔っ払って寝てます」

「はやくモンスターの慣らし方、教えてくれよ……」

山の上のダンジョンはさわやかな山風が吹き下ろす。おじいさんはクエスト依頼者の祖父のようだが、チュートリアルも兼ねていたようで、イベントが進行しないと、先へ進めないようだ。

しかしすっかり酔って寝ている。くまなくあたりを探しても、イベント進行に必要なアイテムや人物もない。また、その先の用事はすべて終えてしまっている。

ボスを倒して、行き止まりにつき、引き返したはずが、さっきと同様おじいさん寝てるのでは、詰んだみたいだと思っても仕方がない。ね。


どうやらイベント用マップなのか、頂上付近は敵も現れないようだ。

「あー、戦闘したいなー。このへんならもう無双できるのに」

おれは山の上からブーメランを構えた。

「ちょっと、何してるんですか」

「いや、なんとなく……」

おれは遠い風景に向かってブーメランを投げようとしていた。うっすら湿気で煙るその先は白い。

「意味ないですって!」

「わかんないじゃん!」

おれはブーメランを投げた。イベントマップでは、おれのブーメランは謎解きツールにもなる。アイテムを引き寄せたり、色々できる。

転生してから十数年、ゲームとしてなのか、オープニングらしきプログラムが動き出した次の日、道具屋の宝箱から手に入れたやつだ。

ちなみにその日、おれは内に眠る「火の災い」が暴走したらしく、実家を燃やして城を出入り禁止になっていた。

あるある、そういう始まり方なのね。それはいいんだけど。

それはいいが!


虚空に向かっておれはブーメランを投げつづけた。

「くらえ!やあ!とりゃあ!」

いまだ甲高い少年の声。勢いよく放たれるそれは、前世とは大違いだ。そういうキャラだから仕方がない。

「やめてよ……怖い……」

僧侶が半泣きになる。でも、やることなんてやりきった。チュートリアル前だから、できないことも多いはずだ。アンロックされてない要素はどうにもならない。

「あっ」

「ん?」

ブーメランは虚空を滑り、手に戻るを繰り返す。その最後の一回、なにかが引っかかった。



……おじいさんだ。



アイテムかと思ったが、目を覚ましたようすのおじいさんがブーメランに引っかかっていた。どうなってんだ。

「きゃああああ!」

「どうしたかね、若者よ。さあ、わしの酔いもさめたし、山を降りようかね。」

「イベント進行した……?」

おれは先回り、そっと酔ったまま寝てるほうのおじいさんを茂みに隠そうとした。同一人物だ。混乱するとまずい。しかし動かない。

「やばい、まだ来るな」

「そうじゃ、山のモンスターを倒してくれたお礼に、モンスターの慣らし方を教えよう。仲間にすると頼れるぞい」

おれがあたふたしている間に、歩いてくるおじいさんは、寝ているおじいさんに近づいてくる。


そこへ天の声。

神様?

違う、夢で見たやつじゃない。

「デバッグ用メッセージ。フラグ『おじいさん』を2にするデバッグ用イベントは、座標○△です。座標表示はVキー」

「うわあああ!」

おれは急いでブーメランを投げた。

むかし気づいたことだが、アイテム取得用のスクリプト?かなんかが、イベント進行中だけバグってデバッグ用イベントを起動させるらしい。

つまり、世界の裏側を触れてしまうんだ、ほんのわずか。


一見適当な虚空に投げたブーメランが空中のある一点を通ると、足元で寝ていたおじいさんは消えた。そこへ歩いてくるおじいさんが横を歩き過ぎていく。

おれは一瞬呆然とした。

手にはなにもない。

バグのせいか、それ以来ブーメランが消えている。

「何やってんですか、行きますよー」

「あ、うん」

おれは坂の下を見下ろした。おじいさんが一人で行ってしまう。僧侶とほかの仲間が待つなか、おれは駆け下りた。

モンスター慣らしのチュートリアルは見過ごした。おじいさんは一瞬点滅すると、ダンジョンの入口までワープしていた。その間にチュートリアルはあったはずが、抜けたままになってしまっていた。しかも、だれも違和感すら感じないのか、突っ込まない。

「この世界、最初からバグりきってんじゃん……」

俺たちは長い時間をかけ、レベルは頑張って上げたが、主要イベントにはほぼ関わらなかった。どこにも行かず、ずっと最初の町を拠点にうろうろしていた。いざ初ダンジョンと勇んで来てみれば、このありさまだ。

「なんてことだ、十数年もの違和感はこれか……これがおれの転生先だなんて……ゲームならやめれるのに……」

前世なんてあまり覚えてないが、ゲームファンなのは間違いない。あと、たぶんゲーム制作も趣味だったんだろう。すこしは。


ブーメランを失ったおれは、唯一覚えていた火炎魔法くらいしか使うことができない。しかもそれは単体攻撃だった。一網打尽できない戦闘なんて耐えられない。

「うああ……」

おれの行動が微妙なせいで仲間が徐々に戦闘ペースを崩す中、おれはうめいた。

一緒についてきていたはずのおじいさんは、街へつくと消えていた。なにが足りなかったんだ。

クエストの依頼者の少年は、いつもの挨拶しかしない。あのおじいさんの孫のはずだろ、気づけ。違和感もってくれ。

どうやら進行フラグが消え、そのへんの出来事……イベントプログラムは進まなくなっているようだ。


「冒険、楽しみですね。どんな旅であろうと、きっとかならずサポートしますから!」

「僧侶ちゃん、会話フラグ進んでないね……それ初対面のセリフ……」

おれは肩を落とした。

実家は最初あたりのイベントのせいで焼け落ち、跡形もない。そのせいで王様に誤解されたままのため、城にも入れない。まだなんにもしてないのに。イントロで誤解されたままのせいで。


「もう、デバッグイベント探しながらまわるしかないのか……」

「なんですかそれは?食べ物ですか?」

僧侶はわからない単語となるとたまにこればかりだ。思考停止しているだけだと思いたい。


そもそも……

おかしいと思ったのは最初のころからだった。

王様が演説中でも、自分が寝てるときでも、女神の出てくる夢の中でも。おれはいつでもブーメランが投げられ、思いのままに移動できる。

イベントプログラムが進行しないと、街の時間すら進まない。

転生モノあるあるなチートなどはない。色々困ってばかりだ。バグがありすぎたら、いつかは完全にバグのせいで、世界が壊れるかも……。


おれはなまぬるく決意した。

「まあ、やるしかないかー。あー、どうにか魔王倒して、ハッピーエンド迎えたいなあ!」

こうなりゃ、バグらせデバッグコマンド出しまくりでも、どうにか世界を救ってやる。

やけになって、おれはブーメランを投げまくった。

手始めに、次のイベントフラグでも立てるとするか。次の町に行くための橋を下ろすカギもなかったはずだ。


すると、いきなり夜になった。

「あ?」

お城で花火が打ち上がり、ラッパが華やかに鳴り響く。

どうやら……エンディングイベントがはじまってしまったようだ。

「勇者よ、世界を救いよくぞ戻った!最初は街を襲う魔王の手先と勘違いしてたが、見違えたぞ!」

「いやまだなんもしてませんけど……」


あたりを見ると、お祝いムードな人々が騒いでいるが、なんだか普段より人が多い。数倍くらいに。

いつもの世間話も聞こえてくる。どうやら、ふつうのときの住民と、お祝いモードの住民は別のイベントらしく、時間をこえて重なって存在していた。

「あ、あかん……」

おれは青ざめた。こうじゃない。せいぜい次の町とかに進むイベントとかがあればいい、という気分だったんだ。

「大変でしたね、勇者様!でも、わたしたち、すごく頑張りました!」

「なんもしてないよ、おれらは……」

花火がいつまでも上がり続ける。光が消えるプログラムが発動しないのか、花火は空で重なりどんどん明るくなってくる。


これでいいのか、こんな世界で?


……まあ、いっか。



「いいわけあるか!こんな変な世界嫌だ!」

「おかしいのは勇者様です!いつも変なことばかり言って!」

「……ブーメラン?」


ほんとに、まあ、いっか。

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