★近くて遠い一夜 ~ traumatic
【※R15程度の性描写があるのでご注意下さい】
何度か唇を重ねられているうち、次第に息苦しくなったアンジュは呼吸を求め、口を僅かに開ける。直ぐ様そこを狙ったかのように、熱く質量あるジェラルドの舌が入り込んで来た。彼女の小さな舌に絡め、口内を味わうように艶かしく動き回る。
驚きと困惑で錯乱していく思考の中、『自身の内で直に彼の体温を感じられている』という状況がアンジュには嬉しく、胸の奥がきつく絞られ、打ち震えていた。
暫し後、苦しそうな吐息で我に返ったジェラルドは、名残惜しそうに唇を離した。瞳を涙で潤ませ、頬を薄紅に染めているアンジュを抱き抱え、ダブルベッドへ押し流すように仰向けに倒す。
自分と彼女のブーツの紐を素早く解き、床に脱ぎ捨てる。しっかりと両手を繋ぎ、柔らかなマットに縫い止めると、明らかに動揺しているアンジュを覗き込むように、身体全体で覆い被さった。
夜露に濡れたベリーに変化した、彼女の丸い唇が酩酊した視界に映る。
――愛らしい……喰ってしまいたい……
湧いた衝動を流し込むように、再び自身の口でアンジュの唇を包み込み、微かに開いた隙間から舌を割り入れる。口内を舐める度に滴る、ほのかに甘い液を吸い上げ、流れ落ちる自身の唾液と絡ませる。
そんな慣れない自身の艶な行為が、ジェラルドを次第に酔わせた。何度も繰り返される深いキスが、想いを通わせたばかりの若い恋人達を、じわり……じわり……と蕩けさせてゆく。
――ずっと……ずっと、俺は、こうしたかったのだ……
――この娘を、こんな風に自分の全てで抱き込んで…… そんな夢を何度も、何度も……見たような気がする……
次第に苦しそうな表情に変わったアンジュに気づき、ジェラルドは慌てて、顔を離した。涙を滲ませ赤らんだ表情で、けほっ、とアンジュは軽く咳き込む。
はぁ……は……と二種の呼吸音が、狭い室内に響いていた。
「……さわって……いい、んだな?」
荒い息遣いのまま、いつもより一層低く、ぴん、と張り詰めたチェロの音色が、艶やかに響く。欲を孕む男の目付きと表情に変化したジェラルドは、躊躇いがちに窺った。
いつもの瞳の色ではない。深緑のダークグリーンでも、ペリドットでもなかった。萌える若葉のような、刹那的な炎が艶に揺らめいている。
驚きと恍惚の混じった表情のまま、こくん、とアンジュは首部を上下に動かす。心臓はかつてない程に暴れている。いつもの彼と様子が違うのは、少し怖かった。
しかし、先程、深く触れ合った時に感じた幸福感、甘い高鳴りの方が、ずっと遥かに勝っていたのだ。口枷は恐ろしかったけれど、唇を守れて本当に良かった……と、熱に浮かされたような脳裏に過ったが、今の自分の状態を思い出し、少し血の気が引いた。
「あ、私……あれからシャワーを……」
あの後の身体を、彼に見せるのはさすがに抵抗があって、途端に躊躇する。しかし、ジェラルドの目付きは悟り、据わっていた。
「そのままでいい」
ぴしゃり、と有無を言わさぬ物言い。許容というよりは、彼女の身体に刻まれた、忌むモノへの威嚇を剥き出している。
「……アイツに、どこを触られた?」
「……⁉」
あの事が瞬時に甦り、なぶるような震えが、アンジュの全身に走った。顔が少し歪む。思い出すのは、やはり辛い。
「ああ……悪かった。言わなくていい」
察したジェラルドは、宥めるように額に口付け、改めて体制を整えた。ぎしり、と古いスプリングが軋む音が、響く。
「ジェ……ド、さん……」
「怖くなったら……我慢しないで叩いてでも、止めてくれ…… いいな?」
不安と喜びの混じった複雑な表情をするアンジュに向かい、しっかり言い聞かせるよう、喉奥から絞り出す。いつになく艶々と揺らめく閃光を放つ、ジェラルドの若葉色の瞳が自分の視線を捕らえ、反らせない。
片手でアンジュの頭部を包み、細い首筋、鎖骨にかけ、唇をゆるやかに啄みながら這わせる。同時に、ざらついた熱い舌先で優しく舐めると、慣れない感触に驚き、小鳥のさえずりのような甘い鳴き声が、彼女の口元から零れた。
カーディガンとブラウスのボタンを、ぎこちない手つきで一つずつ外され、胸当ての止め金が緩む。それだけで心臓が、きつく、甘く絞られる気がしたアンジュは、思わず瞼を閉じた。
慎ましげながらも柔い膨らみが、ゆっくりと慎重に、胸当ての隙間から少しひんやりとした掌に包まれていくのが判った。
「……ジェ……さ……」
瞬時に彼の名を呼び、無意識に漏れ続けていた自身の声に気づく。途端、激しい羞恥が襲ったアンジュは、慌てて手の甲で口を塞いだ。
少しざらついた彼の長い指が胸元で湾曲する度、艶かしい自身の吐息と共に、甘い炭酸水が全身を走り抜けるような粟立ちを感じる。
……あの時。似たような事をされた記憶はあった。が、なるべく何も見えないよう、感じないように瞼を閉じ、意識を、自分全てを殺していた為、未知の刺激による妙な違和感と、身体中を好き勝手に触られた不快感しか覚えていない。
そんな忌まわしい記憶が微かに甦る度、軽い眩暈、震えが起こった。手の力が緩み、甘い鳴き声は呻きに変わる。
「う、あ……」
「……アンジュ」
小さな悲鳴のような声が耳に入り、彼女の耳元で、ジェラルドは心配そうに呼んだ。覚えのある、静かに響く低音の声に惹かれるように、涙で覆われたマリンブルーの瞳で、彼の顔を見る。
「……もう、止めるか?」
いつになく真剣で、どこか思い詰めたような表情で問う恋しい人。不安、労り、焦り、そして、熱を含んだ艶のある若葉色の瞳が、自分の様子を伺っていた。
似た色味だが、あの男とはまるで違う眼差し。自分をひたすら気遣い、慈しむような優しい触れ方……
今、自身の全てを預け、委ねているのは、目の前のこの人なのだ、と認知し直したアンジュは、静かに首を振った。
「……わかった」
緩んだストラップをずり下げ、シュミーズと胸当てを腰元まで剥がし落とす。白く柔らかな膨らみが、鮮明に視界に映った瞬間、熱い血流が雪崩れ込むように、ジェラルドの目元を襲った。思わず、額を片手で被う。
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